連載 今の研究を語る
ジョン・デューイの政治思想
![]() 小西 中和 (経済学部教授) |
私はこれまで二十世紀のアメリカを代表する知識人であるジョン・デューイの思想と学問を政治思想史の観点から研究してきましたが、二〇〇三年末にその成果をまとめて『ジョン・デューイの政治思想』(北樹出版)という著書を出版しました。
デューイの名前は我が国でも戦前からプラグマティズムの哲学者あるいは教育学者として知られており、その方面については研究も積み重ねられてきました。デューイが先行するヨーロッパ諸哲学―とりわけドイツ観念論―とのどのような格闘の中から独自の哲学を形成したかについて、私も『デューイ政治哲学研究序説―思想形成過程試論―』(滋賀大学経済学部研究叢書一九号、一九九一年刊)において検討しています。しかし、彼の政治思想の領域の研究は我が国においてなぜか未開拓のままでした。
デューイは「戦争と革命の世紀」とかあるいは「アメリカの世紀」と称せられた二十世紀前半の激動する世界の状況や重大事件についてたゆみ無い観察と発言を試み、多くの時論的著作を残しました。それは二十世紀に生きた人々が直面した切実な諸課題への真摯な取り組みとその解決の模索を意味しており、民主主義、自由主義、社会主義、ナショナリズムといった問題群への粘り強い思索を伴っていました。この度公刊した拙著では、彼の
苦闘の跡を辿りながら、その成果としての政治思想が孕む今日的意義やアメリカ的思考の特徴を探ろうとしました。
デューイの政治思想を研究する現代的意義については、研究の本場であるアメリカでの近年の動向を見れば明らかでしょう。一九八〇年代にリチャード・ローティによって「哲学の脱構築」の立場からなされた新たなデューイ解釈の提起は「デューイ・ルネッサンス」と呼ばれるデューイ哲学への関心と研究の増大を生み出しましたが、さらに九十年代になってデューイの政治思想への関心と研究が一気に噴出し、研究書や論文が続出しました。これが意味しているのは、冷戦の終焉やソ連・東欧の社会主義の崩壊という大事件を踏まえて二十世紀が抱えてきた諸問題とその解決の方向を改めて見直そうという観点からデューイが注目されたということです。拙著はアメリカにおけるこのような新しい研究動向をフォローした上で、既発表の諸論文に手を入れ、全体としてまとまりのある一書となるように構成したものです。幸いにも同業者の間でデューイの政治思想に関する我が国における最初の本格的な研究書としての評価を得ることができつつあります。
ただ残念なことにデューイの平和思想についての論考を著書に入れることができませんでした。彼は二十世紀における二つの世界大戦や冷戦を経験する中で、戦争と平和の問題についての思索と態度決定に複雑な軌跡を示しています。そこで彼の平和思想を素材にしながら戦争と平和について考察する本を書くことを次の仕事として考えているところです。