【2017/11/30 経済学部ワークショップの模様】

《マンガ学ワークショップ》

バトルマンガ・格闘マンガから考える少年マンガの物語構造−最強の追求によって実現される究極のコミュニケーション−

足立加勇(立教大学兼任講師)

 マンガ学ワークショップの第2回として、 日本のマンガ・アニメにおいて特徴的な「戦い」について研究されている足立加勇先生にお越しいただき、 「バトルマンガ・格闘マンガから考える少年マンガの物語構造」というテーマで、少年マンガの主人公が戦うときの暗黙のルールや、 主人公は何のために戦うのかという問いに対する答えが変遷してきた点について、多くの具体的な作品とともにお話ししていただいた。 足立先生は「戦い」についていくつかの類型を見出し、それぞれの「戦い」の表象の特性を分析されており、 今回の報告はごく一部をご説明いただいた。その内容について以下でご紹介させて頂く。

 「誰が最も強いのか」という問いを読者からずっと投げかけられる少年マンガにおいて、 最強を追い求めることだけでは意味がないことが初めて示されたのは、『鉄腕アトム』の「地上最大のロボットの巻」であった。 「一対一で戦い、相手を破壊したほうが勝ち」という暗黙の法に従い、世界一のロボットを決める戦いが行われたが、 アトム以外の全てのロボットが死亡するという虚しい結果に終わった。

 そのため、『鉄腕アトム』以降の少年マンガにおける「戦い」では試合のルールが成文法として定められ、 そのルールのもとで行われるスポーツになっており、「地上最大のロボットの巻」にはあった暗黙の法がなくなっていた。 それを変えた作品が、高森朝雄・ちばてつや『あしたのジョー』である。 主人公のジョーと力石徹との戦いは成文法としてのボクシングのルールに則り行われたが、 続くカーロスとの戦いではボクシングのルールを無視した戦いが行われた。 しかし、二人の殴り合いが究極のコミュニケーションとなり二人の間に友情のような感覚が芽生え、 「男の本能」や「男と男の間の絆」が暗黙の法として確立された。

 1980年代以降の格闘マンガにおいては、『あしたのジョー』で確立された 「『男と男の間の絆』という暗黙の法は成文法を優越する」という方法論を踏襲するどころか、 科学など万物を超える存在として描かれることになった。板垣恵介『グラップラー刃牙』において、 主人公の刃牙の異母兄であるジャック・ハンマーが過剰なトレーニングと非常識なドーピングを繰り返すものの、 医者の予想とは異なり身体が崩壊せずに進化という奇跡を起こすのは、その典型であると言える。

 マンガ学ワークショップの第1回では、マンガのコマが緻密に計算されて描かれていることに焦点を置いたのに対し、 今回の報告ではストーリーをきっちりと読み解くことによって、 「戦い」が持つ意味やそれが生み出すコミュニケーションについて理解することができ、 マンガを深く読む楽しみを示してくれた報告であった。告知ポスターが非常に特徴的なものであったおかげであろうか、 研究者のみならず学部生もワークショップに参加し、 それぞれの視点でコメントをしてくれたことは本報告を企画した身として非常に嬉しいことである。
  (文責:山下悠(企業経営学科))