【2017/9/1 経済学部ワークショップの模様】

《マンガ学ワークショップ》

読者はコマの時間をふくらます

ふたつのフレームと複数の時間
中田健太郎(日本大学非常勤講師等)

吹きだしの順序、帰属、宛先
細馬宏通(滋賀県立大学人間文化学部教授)

 意外に思われる方が多いかもしれないが、マンガを対象とした学問的研究はかなり行われている。 「物語(ことば)」と「絵」を同時に提示しながら展開していく、この文化的構築物を、 従来の学問領域の枠内に留めておくことは不可能であり、様々な角度から学際的に議論されている。 「学際性」を謳う滋賀大学経済学部には適したテーマと考え、「マンガ学ワークショップ」を立ち上げた。

 その第1回目として、今年出版された論集『マンガ視覚文化論 見る、聞く、語る』(水声社)の編者の1人、 中田健太郎先生と、その執筆者の1人、細馬宏通先生にお越しいただき、「読者はコマの時間をふくらます」 というテーマでお話しいただいた。上記論集では、両先生とも「ふきだし」について論じられており、今回はその発展形と言える。

 第1スピーカーの中田先生は「二つのフレームと複数の時間」というタイトルでお話し下さった。 「コマ」と「ふきだし」は全く別物と感じられがちであるが、実はそのどちらかと特定しにくい事例が多く存在することを指摘し、 それを的確に捉えるために「切りとるフレーム」と「あふれたフレーム」という概念を提示した。前者はフレーミング、 後者はレイヤリングがその機能である。そして「コマ」を「切りとるフレーム>あふれたフレーム」、 「ふきだし」を「切りとるフレーム<あふれたフレーム」と理解することにより、「コマ」と「ふきだし」の間の連続性を説明したが、 これは心理学で言う図と地の反転に類似した現象であり、非常に説得力があると感じた。

 第2スピーカーの細馬先生は「吹きだしの順序、帰属、宛先」というタイトルで、 同一コマ内の複数の吹きだしが、誰がしゃべっているのか、どの順序でしゃべっているのかが「分かりにくい」場合があるが、 それは元来「ファースト」に読めるマンガを「スロー」にさせることで、 読者に表面的なものだけでない付加的な解釈を気付かせてくれる場合が多々あることを指摘された。

 両先生ともに、マンガが緻密に計算されて描かれていること、そしてそれをきちんと読者が読み取ることで、 一コマ一コマの時間の流れが一様ではなく、場合によって「ふくらみ」、 より深く読むことでマンガを読む面白さが増幅することを、多くの事例を提示しながら示してくれた。またそれだけでなく、 認知科学や心理学など多彩な既存学問分野の成果に裏付けられたマンガ学のワークショップを、 多様な分野の研究者が属する本学部で開催する意義のあることが、活発な質疑応答が行われたことで証明できたように思う。 今後もすでに数回開催が予定されているが、さらに多くの方が参加され、学際的交流の場になることを期待したい。
      (文責:出原健一(社会システム学科))