【2017/6/5 経済学部ワークショップの模様】

《ものひと地域研究会》

タルマーリーの思想〜その後の展開

渡邉格 (タルマーリー経営)

 千葉でパン屋を開業していた渡邉さんは、2011年の東日本大地震に伴う東京電力福島第一原発の事故をきっかけに西日本に移住された。 最初岡山で開業したが、パン作りの環境その他の事情から鳥取県智頭町に店を移したのが2014年11月のことであった。 すなわち前回お越しいただいたときは、智頭町に引っ越してから間もない頃のことであり、 まだまだお店の整備やビールづくりの準備など大変お忙しくされている時であった。

 実はその後、2016年1月には学生を連れて、筆者は鳥取県智頭町のタルマーリーを訪れている。 もちろん学生たちにはタルマーリーの取り組みを直に見せたいというのが理由であるが、 内心ビールづくりがはじまったと聞いていてもたってもいられなかったというのもある(同年5月にはプライベートでもう一度訪問している)。

 格さん−そしてそれを支えるお連れ合いの麻里子さん−の物づくりに対する考え方に大きな変化があるわけではない。 ここでは詳細は繰り返さないが、自然環境と常に共にあり、ものづくりを通じて、人の暮らし、地域のあり方までも変えてしまうような思想だ。 この基本的思想は一貫しているものの、立ち現れてくるタルマーリーの取り組みは、千変万化である。 昨年5月の訪問以降も、石窯を取り壊し、ソーセージの燻製機を備え付け、イノシシのソーセージの生産が始まっていた。 それは絶えず周囲の状況と対話しつつ、変化をしていくまさに菌のような姿だと思った。 近々、パン作りはお弟子さんに任せて、自分はビールとソーセージの製造に携わることになるだろうともおっしゃっていた。 パン屋からスタートしたタルマーリーはもはやパン屋というカテゴリーには収まらないものになってきているのである。

 格さんは、安定や静学的均衡を求めていない。あるのは刻々と変化する状況の中での一時的な解であり、常にそれは変化する。 それを「菌衡」と呼ぶとすれば、「菌衡」は不均衡動学なのかもしれない。そしてそれは地域の中で共生していく上で、 不可欠なことのようにも思える。

 タルマーリーの物語はまだまだ続く。楽しみである。 (中野 桂)

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