【2016/5/30 経済学部ワークショップの模様】

《文学研究会−Enrich your Life through Literature−》

核問題を詩・絵本を通して考える

アーサー・ビナード (詩人)

 今回のワークショップでは、詩人のアーサー・ビナード氏を講師としてお招きした。 アメリカ・ミシガン州の出身で英語を母語としながら、日本語で詩を書き、 中原中也賞の受賞者でもあるビナード氏について、新聞やTVなどのメディアで知る人も多いだろう。 その活動は、詩作だけにとどまらず、絵本や紙芝居、児童書、エッセイ集、ラジオ番組のパーソナリティ、 果ては、オバマ大統領の通訳までと幅広い。文学の持つ社会的役割を再考する、 という視点を持つ本ワークショップでは、ビナード氏のヒロシマ詩集『さがしています』や 絵本『ここが家だ―ベン・シャーンの第五福竜丸』を念頭におき、 「核問題を詩・絵本を通して考える」というタイトルでご講演いただいた。

 ビナード氏の講演は、アメリカの詩人ソロー(Henry David Thoreau, 1817-1862) の詩の日本語訳の朗読からはじまった。60名を超える出席者の多くは学外から集まった方々で、 ビナード氏は次々と出席者に質問を投げかけた。峠三吉(1917-1953)の『原爆詩集』では、 かの有名な「ちちをかえせ ははをかえせ」を取り上げ、「この詩のタイトルを知っていますか」。 さまざまな答えがあがったが、正解はなし。タイトルが「序」であり、この詩が本来は被爆・ 原爆問題の「序」であるにもかかわらず、詩人の意図を無視し、詩が切り取られ、 政治に利用されてきた問題点をビナード氏が指摘すると、深くうなずく姿が散見された。

 広島平和記念資料館にのこる遺留品を「声なきものたち」ととらえ、 その「もの」の声に耳を澄ました詩作品を集めたビナード氏の『さがしています』(2012年)は、 声なきものたちの声を「通訳」できないか、という想いから生まれたとのこと。 ふたつの言語を常に行き来するビナード氏らしい発想だ。自身が広島平和記念資料館に通いつめた体験から、 数日前のオバマ大統領の広島平和記念資料館「訪問」を痛烈に批判。 オバマ大統領が広島でおこなったスピーチの通訳として現地にいたビナード氏は、 現場を知るものならではの迫力でオバマ氏の訪問を分析し、会場は熱気につつまれた。 「あれは広島訪問じゃない。岩国基地訪問。ついでに広島に寄って、広島平和記念資料館でトイレを借りたんだ」 とのブラック・ジョークで会場を沸かせたが、その底には母国の広島に対する対応への怒りが見て取れた。

 詩人ならではの言葉へのこだわりに満ちた<ヒロシマ分析>は、 我々ひとりひとりがもっと「言葉」に注意深くなり、メディア報道に騙されないように最大限の注意を払うことの重要性を、 参加者の心に届けたことだろう。講演時間後も参加者と語り合うビナード氏の熱い想いに「日本」はどう答えるのか、 私達ひとりひとりの行動が改めて問われていることを痛感した。 (文責:経済学部准教授・菊地利奈)