【2017/2/3 定例研究会の模様】

20世紀前半におけるイギリス多国籍企業と
国際税制

日米との比較を視野に入れて

井澤 龍 講師

 本報告では、1914年から1945年を大まかな時代区分として、 第一次世界大戦期に顕在化した国際的二重課税問題に対し、イギリス多国籍企業・経営者団体・政府がいかなる対応をみせ、 イギリスの国際課税制度が構築されていったのかを報告した。イギリスの経験は、他国の企業・政府、 国際機関の動向に影響を受けていた。報告では、他国、国際機関との関係史を紹介する一方、 日本、アメリカの多国籍企業・経営者団体・政府がいかなる対応をみせ、 めいめい独自の国際課税制度を築いたのかの比較史についても言及し、イギリスの経験をより刻銘に映し出そうと試みた。

 報告では、現在、国内外で盛んに論じられている事例研究、歴史研究の意義について、 その方法論を考察した研究の動向について軽い紹介を行った。 その後、経営史・社会経済史・国際租税・経営学研究における本報告の独自の立ち位置について、 先行研究をレビューし確かめた。

 20世紀前半イギリスについては、時期区分を(1)1914〜1920年、(2)1920~1936年、(3)1936〜1945年の3つに分けて論じた。 イギリスは、1920年財政法にて、帝国内外で差別的な国際的二重課税排除防止措置を講じた。 (1)では、1920年財政法がどのように構築されたのかを、政府史料、各種経済団体史料等を用いて明らかにした。 (2)では、1920年財政法の枠組みがあまり揺らがなかったのかを、上述の史料に加え国際連盟史料等も組み合わせながら議論した。 (3)では、1920年税制法の枠組みを崩すことになった1945年英米租税条約の成立経緯について論じた。 さらに、(1)〜(3)ともイギリス多国籍企業がこの事業環境に適応し、租税回避スキームを考案・実行に移したのか、 その実践が企業戦略・組織・管理にいかなる影響を及ぼしたのか企業史料等を用い論じた。

 日米の章では、まず戦前期の日本の国際課税制度を詳細に明らかにした上で、それに適応した日本企業の事例について言及した。 日本もイギリスと同じような課税制度を構築したものの、総じてみると日本企業は、 イギリス多国籍企業ほどには国際的二重課税問題に苦しんではおらず、 また、租税回避を理由として国境を越えた組織再編をする例はそれほど多くみられなかった。 アメリカは、先んじて全世界的な国際的二重課税排除防止措置を講じ、国際税制に関する世界的な議論においても、 イギリス等他国と妥協しながらも旗手として活躍した。

 こうした分析を踏まえ、20世紀前半におけるイギリス政府の国際連盟等での奮闘の成果が、 現在の国際税制のルールの一部に制度的遺産として残っていること、 1920年代から既に現代的な国際租税回避の技法がみられること、課税制度が及ぼす企業経営への影響が無視できないことを報告した。

 研究会参加者からは、忌憚のない、しかし建設的なコメントを頂けた。この場を借りて感謝申上げます。  (経済学部講師・井澤龍)