【2016/6/28 経済学部講演会の模様】

ヘミングウェイのことば

今村楯夫(東京女子大学名誉教授)

 6月28日14時30分から16時、5番講義室において、今村楯夫東京女子大学名誉教授の講演「ヘミングェイのことば」が行われました。 先生はアメリカ文学を長く研究、特にヘミングウェイ研究において国際的に活躍され、日本のヘミングウェイ研究を率いて来られています。

 今回はスペインへの調査旅行からの帰国直後で、旅で得られた新たな発見、特にヘミングウェイの小説『誰がために鐘は鳴る』 (For Whom the Bell Tolls)に関して新しい知見を示され、先生の知的興奮が熱く伝わる講演となりました。 作品の背景となった地に足を向け体験されたことが、今村先生を通して発信され、文学作品における時と場所の意義、 言葉と現実の場やモノとの関係という、文学の根幹に関わる問題が、生きた知的探求として展開されました。 80余名の聴衆の多くは、教養科目「言葉と文化」の受講生で、4月から英語と日本語で書かれた詩と小説に接し、 2ヶ月あまり熱心に言葉に向き合い、様々な時代と場所で書かれた言葉を通して世界、社会、自然、人間について真摯に考えてきた学生たちでした。 当日までに課題で、自らの考えや感じたことを独創性溢れる言葉で表現してきた学生は、 他の人が書いた言葉が繰り広げる世界に関して自己表現することには、長けていました。

 講演冒頭、先生はスペインで撮られた「石橋のある風景」を示し、この写真を見て「吉村朝子」を主人公に情景描写、 人物造形せよという課題を与えられました。自らの言葉での創造行為は参加者にとって衝撃的なものだったと思われます。 作業後、書き手が個々個性ある言葉をもって作品を作り上げること、一行が一冊の本になりゆく過程、つまり言葉がどのように文学になっていくのかを、 ヘミングウェイの言葉、『誰が為に鐘は鳴る』を中心に用いて講演されました。 本作品の背景となるスペイン、特にスペイン市民戦争以後の歴史、社会、文化について、地図や写真を駆使して説明された結果、 地名をはじめ諸事実に息吹が吹き込まれました。また、 ヘミングウェイの4番目の妻による回想録などを参考に作品を読み直されると固有名詞ひとつとっても意味が変わってきました。 さらに、「氷山の理論」(省略の理論)や「作家は人物ではなく人間を描くのだ」というヘミングウェイの言葉が何を意味するのかが読み解かれました。

 講演最後に再び、冒頭と同じ課題が与えられました。80余名の創作を読まれた先生は、 「最初の情景描写では表面的であったものが、二度目の描写では風景の細部に目配りがいきとどき、 その風景(画像)を見たことのない読者にも伝えることができる表現に変わっていた」ものが少なからずあり、 「ひとりひとりがまったく異なる「創作」をしており、そこに個性が出て」いたとおっしゃっています。

 一流のヘミングウェイ研究者により、ヘミングウェイの言葉が読み解かれたことによって、参加者の、文学、 さらには日常の風景に対する目が深まり、世界が新しい広がりを見せることとなりました。

                                          (経済学部教授 真鍋晶子)