【2016/6/26 経済学部講演会の模様】

原発学習会−原発のほんまのこと−

後藤政志(工学博士、原子炉専門家)
守田敏也(ジャーナリスト)

 今回の経済学部講演会は、環境総合研究センターとの共催で「原発のほんまのこと」と題して開催された。

 講師の後藤政志氏(工学博士)は東芝で約20年間、原子炉格納容器の設計者として働いた経験を持ち、 在職中から原子炉格納容器の安全性に疑問を持つようになられ、退職後は積極的に現在の原子炉技術の問題点を指摘してこられた方である。 東日本大震災の際は、「3月12日の時点でメルトダウンしている、あるいはしつつあると確信していた」という後藤氏は、 設計に関わった技術者としての責任感から、その後、特にその発言を強めてきた。

 後藤氏のお話は、原発において安全性がどのように考慮されているかという専門的な話であったが、同時に科学とは何か、 リスクとは何かなど一般教養としても大変参考になる話であった。

 中でも印象的だったのが、圧力容器内の冷却水の水位計の話だった。福島の事故の時に炉内の水位計が壊れて冷却水がまだあると表示された。 事故後の審査では「この水位計は一定の温度を超えると正しく表示されません」と表示することで規制委員会は良しとしたそうだが、 しかしこれはとんでもないことだという。「この高度計は一定の温度を超えると正しく表示されません」という飛行機に乗る人はいない。 水位計は原子炉にとって最重要な計測器の一つであるにもかかわらず、このような対応で済ませようとすることはありえない、 と熱を込めて後藤氏は語られた。真の改善とは過酷事故に際にも正しく表示されるように改修されることであるからだ。

 その他にも基準地震動の決定方法や、航空機衝突の可能性、さらに新たに設置されることになった強化扉や水密扉のお話も興味深く、 いかに規制委員会の基準が不十分であるかということが大変よくわかった。

 後半は、ジャーナリストの守田敏也氏とのトーク形式で、老朽化原発における脆性破壊の問題のほか、 科学的証拠(evidence)と技術者の判断(engineering judge)の関係、フェイルセーフの考え方(安全学)など、議論を深めた。

 後半の話の中で特に興味深かった内容を一つだけ紹介すると、日本の技術は優秀な故に安全学が発達しなかったという指摘だ。 安全学の立場は、故障することを前提に考える。故障した時にどういう対策がとられているかが評価の対象となる。 一方、日本は信頼性を上げることで安全性を確保しようとしたが、それは安全学の理念からは外れるものであるという指摘である。 安全学とは「壊れないので大丈夫です」ではなく、「壊れた時にこうなるので大丈夫です」と考える学問であり、それがフェイルセーフの考え方である。

 40名ほどの参加者が熱心にこうした議論に耳を傾けていたが、主に学外からの参加者であり学生の姿が少なかったのが残念であった。 安全学はものづくりの基本の一つとも言えるものであり、これから社会に出て行く学生にはぜひとも学んで欲しい学問の一つであると感じた。

 なお、当日の講演会の様子は、以下のページで公開されている。
【前半】 https://youtu.be/Rb_qIEt8Pzc
【後半】 https://youtu.be/Mk5FPOYauV0

 (文責:中野桂)