【2016/3/2 経済学部ワークショップの模様】

《企業経営と社会変容のクロスカルチャー研究》

京都から近江、そして外国へ―私の研究遍歴

宇佐美英機 (経済学部教授・経済学部附属史料館館長)

 本年3月末をもって滋賀大学を退職される宇佐美教授が、ご専門領域である近世・近代日本経営史・商業史を中心として、 学部学生・院生時代以来、そして本学着任以来21年5カ月にわたって論じてきた近世京都の町触編集、金銀紛争に関する慣習研究、 近江商人研究、そして創業以降の伊藤忠・丸紅を中心とした商業・商社史研究について諸論点を概観・整理し、 歴史的に形成された法制度と社会的慣習のなかで、いかにして個々人の意識と行動を総体的に捉えるべきかを論じた。 ワークショップは企業経営学科と共催で行われた。

 ワークショップで議論になった点は以下のとおりである。第一は歴史方法論についてである。 宇佐美教授は歴史研究の新しい潮流として登場した社会構造論に立脚して、 その秩序化された枠組みからはみ出る日常生活や経済活動の社会慣習に注目し、 個々人の経済行為の意味をより包括的に解釈しようとした。 それはすでに卒業論文において扱われた越前国の農民分散(自己破産)の分析に見られた手法であるが、 のちに金銀係争の法制度と京都の出世証文を重要な史料としてまとめた主著『近世京都の金銀出入と社会慣習』(清文堂、2012年〕 において結実した歴史の手法である。教授はこの手法によって社会経済の構造と慣習、 そしてそれらの構成要素である個別行為の3側面から社会と人間を総体として把握しようとしたのである。

 このことは、第二に歴史における人間活動を日常性の視点から問い直すために、 個人や企業の活動を丹念に史料的に裏付けることの重要性を強調することになる。 教授は、この視点に立って、近江商人研究についていえば、いわゆる「三方よし」論の成立経緯を調べ、 既存資料を読み直し、新規史料を発掘する作業に専心した。 ここでも「立身・出世」は中井家などの近江商人にとって重要なキーワードであり、 ここから独自の日本経営史分析への視角が生まれてくる。つまり、成功した企業の経営史だけでなく、 失敗し破産した企業の経営史をも分析することによって、はじめて経営者個人と経営組織の論理と倫理を総体的に把握可能になると考える。

 こうした経営史分析の手法は、第三に、史料に基づいてそれぞれの時代の歴史像を丹念に構築する手法へとつながる。 近年の教授の研究は、戦前の商社史研究、とくに伊藤長兵衛・忠兵衛以降の経営者行動研究のための史料整備に力点を置いている。 その研究フィールドは京都、近江、関西地域だけでなく、朝鮮半島、米国、欧州へと時空を広げている。 これらはなお未完のプロジェクトであるが、その課題は、次世代の滋賀大学に引き継がれ、 のちの新たな成果を生み出す基礎を築くことになるであろう。

 なお、以上に関連する教授の研究遍歴については、「学統を継ぐ」(『彦根論叢』No.404、2015年夏号、80-87頁) に具体的に記されているので、参照願いたい。 (文責:経済学部 三ツ石郁夫)