【2016/2/17 経済学部ワークショップの模様】

《大学における外国語教授法ワークショップV》
   

「統合人間学」とその実践――博士課程教育リーディングプログラムにおける取り組み

石川学(東京大学特任助教)

 大学における外国語教授法ワークショップIIIの第3回目が2月17日(水)に開催された。 講師には石川学氏(東京大学特任助教)をお招きし、氏が携わる博士課程教育リーディングプログラム 「多文化共生・統合人間学プログラム」(以下IHS)の教育活動についての講演を伺った。 IHSはIntegrated Human Sciences Program for Cultural Diversityの略である。 本プログラムは、グローバル化の進展によって深刻化している文化間のコンフリクトを解決するための学知を 「統合人間学」と定義したうえで、講義や演習による座学と現場での実践を二つの柱とする学修活動を通じて、 次世代をリードする人材を育成することを目指している。

 2013年度に博士課程教育リーディングプログラムに採択されたIHSには、現在、 修士課程・博士課程を合わせて約50名の学生が所属している。所属学生は主専攻に加えてIHSを副専攻とし、 在籍中には奨励金が支給される。学生は6つのテーマユニット(「価値・感性」「格差・人権」「移動・境界」 「情報・メディア」「生命・環境」「科学技術・社会」)、および5つの地域ユニット(「ヨーロッパ」「日本」 「東アジア」「中東・アフリカ」「アメリカ・太平洋」)からそれぞれ1つのユニットを選択し、所属ユニットの活動と、 複数のユニットから構成される教育プロジェクトの活動に参加する。

 IHSの教育内容の特色として、多種のインターンシップ(産業界・官公庁への学外インターンと、 人文・社会・自然科学の各分野を越境して研究室を巡る学内インターン)、 短期留学プログラムや3つの外国語学習の義務化などが挙げられるが、 大学等での研究職ではなく修了後に社会で活躍する人材を育てることを主眼とした教育を行っていることも大きな特徴である。 所属学生は、座学による専門的知識の習得と多様な実地研修をセットで行うことで、 学んだ学知を社会のなかで具体的に活用する能力を身につけていく。

 講演では、石川氏が直接関わっている教育プロジェクト「共生のプラクシス―市民社会と地域という思想」 で過去2年間にどのような教育活動がなされてきたのかも詳しく紹介された。 所属教員のみならず外部講師を招聘して行われる演習や、国内外のさまざまな組織での実験実習の事例は非常に多岐に渡っており、 詳細をここに記すことはできない。しかし、これらを貫く「地域」「市民社会」「食」「農」といったコンセプトを通して、 未曽有の震災を経験し今も経験し続けているこの時代にどのようなコミュニティのあり方が構想されるのか、 そして、人と人、人と場所をつなぐ要である「食」にはどのような新しい形がありうるのか、 といった大きな問いが浮かび上がってくる。こうした問いに自分の頭と身体で向き合っている所属学生の自主的な企画についても紹介があった。 滋賀県でも「朽木で考える文化と食」という実験実習の第2回目が2月末に行われる予定とのことである。

 参加者からは、プログラムの制度的な実態や産業界との関わりについて多くの質問が寄せられ、 石川氏とのあいだで活発な意見交換がなされた。石川氏はプログラムが抱える各種の課題についても話されたが、 教育・研究内容の可視化がさまざまな場面で問われる昨今において、 大学や教育課程の違いはあっても教員が取り組まなければならない課題は共通しているのではないか、というのが企画者の感想である。

 なお、IHSのパンフレットおよび論文集『風を感じる――異なるディシプリンと出会うとき』 を数部ずつ経済経営研究所に置いてありますので、ご関心ある方はお持ちください。  (文責 藤岡俊博)