【2015/6/29 経済学部ワークショップの模様】

《ものひと地域研究会》

タルマーリーの思想

渡邉格 (タルマーリー・代表)

 今回のゲストスピーカーは、現在鳥取県でタルマーリーというカフェを営業している渡邉格(わたなべ・いたる)さんであった。 渡邉さんは、以前は千葉県でパン屋を営まれていたが、東日本大震災以降に岡山県真庭市勝山に移住され、そこでもパン屋を経営された。 経営はきわめて順調だったようだが、森との循環など、まだ十分にできていないことがあり、2014年11月に鳥取県智頭町に再移住。 現在では、ビール作りにも取りくまれようとしている。

 智頭町での暮らしは、パン、ピッザ、ビールなどのものづくりを通じて、小麦、ホップ、薪の供給など農業者や林業者とつながることで、 環境との循環や地域における雇用や経済といったお金の循環も生み出してしまおうというものである。

 現代のものづくりが効率性を追求し、例えばパン作りで言えば、無菌室において他の「不純物」が混ざらないようになっている中で、 タルマーリーでは自然の中から麹菌や酵母菌を採取する(下ろす、というらしい)。 腐敗菌も含め、それぞれの菌には役割があって、適切な「居場所」を与えてやれば、発酵菌は発酵菌としてうまく働くし、 腐敗菌は腐敗菌としてその役割を粛々と果たすことになる、ということのようだ。 一見「非効率」に見えるやり方だが、全てに意味があって無駄がないとも言える。

 渡邉格さんのこうした経営哲学は、労働のあり方にもある。 それは、ご自身が修行中に体験されたごく一般的なパン屋での過酷な労働体験にも関係している。 従業員も含め、しっかりと休みを取りながら、心健全にものを作るということだ。

 そして最後に忘れてならないのは、お連れ合いの麻里子さんの存在である。夫唱婦随でもなく、婦唱夫随でもなく、 しっかりとお互いに向き合いながら、両輪としてタルマーリーの方向性を定めて行っておられるような印象であった (因みにタルマーリーはお二人の名前に由来するそうだ)。

 今回の渡邉さんのご講演は、ものづくり、人づくり、そして地域づくりが一体となった素晴らしい実例であり、 本ワークショップの趣旨にまさに合致したものであった。 (文責:中野桂)