【2015/7/9 定例研究会の模様】

環境負債の自発的開示

−レプリケータ・ダイナミクスによる安定性解析−

野田 昭宏 准教授

 本報告は,進化ゲーム・アプローチにもとづいて,企業の環境負債開示の形成過程を解明した研究成果を検討した。 近年,財務報告制度の整備にともなって環境関連の負債開示が拡充されつつある。しかし,その開示実務には,多数の企業間差異がみられ, 均質な環境負債開示実務を前提とした会計報告の比較可能性が確保されていないのが現状である。この観点から, 環境負債に関わる効率的な情報開示制度設計に資することを目的に,企業による自発的な環境負債開示実務の形成過程を記述するモデルを提示した。

 本モデルは先行研究と異なる3つの着眼点をもつ。(1) 環境負債開示に影響を及ぼす要因として, 環境負債認識によって企業が負担する汚染修復コストと,環境規制主体から,事後的に課せられる汚染修復コストをともに考慮した。 (2) 環境負債開示に関する戦略分布の変化を記述するレプリケータ・ダイナミクスに焦点を当てた。 (3) 会計慣行の変化を攪乱させる効果をもつ意思決定主体を考慮し,摂動をともなうダイナミクスにおける情報開示の頑健性を確認した。

 モデル分析の結果は,(1) 環境負債を開示しない企業の戦略と,汚染調査をしない環境規制主体の戦略が, 戦略分布において支配的になる漸近安定点と,(2) 汚染調査実施コストが比較的小さいとき, 企業の環境負債開示と規制主体の汚染調査が,時間経過とともに周期性をもって振動するLyapunov安定点が存在することを示した。 さらに,(3) 無作為な戦略選択をする経済主体が集団に含まれる場合,Lyapunov安定は消失し, 複数の開示戦略が安定して併存する漸近安定点が生じることが紹介された。この結果は,ダイナミクスにおける摂動が, 環境負債開示戦略を安定化させる効果をもつことを示すものであった。

(付記) 本報告で紹介した分析結果の解釈について参加者の皆様から有意義なコメントをいただきました。 ここに記して感謝申し上げます。 (野田 昭宏)