【2015/2/18 経済学部ワークショップの模様】

《歴史学ワークショップ》

福沢諭吉と『士魂商才』−日本近代化の構図−

阿知羅隆雄 (本学経済学部教授)

 本年3月末をもって滋賀大学を退職される阿知羅教授が、 ご専門領域であった19世紀イギリス資本主義における資本と賃労働ならび土地所有の全機構的把握を目指した経済史・ 経営史研究を背景にして、着任以来19年間にわたって経営史関連の講義と演習において論じてきたテーマの一つ、 福沢諭吉と日本近代化の経営理念の論点を総括し、明治以降の日本の近代化がいかなる構図をもって展開し、 今日に生きる我々がそれをいかに評価すべきかを論じた。 ワークショップは企業経営学科懇談会との共催として行われた。

 阿知羅教授は第一に、福沢諭吉の生涯にみられる意識と行動を省察することによって、 福沢が身分制に対する強烈な反発と反権威主義の意識を形成し、それが『学問のすゝめ』の主体形成論につながることを強調した。 福沢によれば、自然法的な人権平等にもかかわらず、なぜ人間社会に貧富貴賤が生ずるかと言えば、 それは身分制の基礎となる思弁的儒学ではなく、人間の普通日用に近き実学、つまり読み書き、そろばんに始まり、 地理学、物理学、経済学などを含む実学を修めて一身独立することが、智をもたらし、重き働きをもたらし、 そして富をもたらすとするのであった。

 第二の論点は、主体形成論がいかにして一国の独立に結びつくかである。幕末維新期の世界の経済構造は、 イギリス中心の世界市場がしだいに帝国主義列強による世界分割へと移行する時期にあった。こうしたなかで、 1860年以来、数度にわたって欧米を視察した福沢は、 開港以来の外国貿易を放置すれば日本は半植民地あるいは従属国へ転落する危機にあることを認識していた。 そこで福沢経済論の中心課題は富国強兵と貿易立国であり、この一国独立を支える担い手こそが、 実学教育を受けて形成された主体としての「ビジネスマン」であった。

 ここに第三の論点である「士魂商才」の解釈がある。教授は、「実学」を修得して独立進取の気性に目覚めた経済主体の主体的・ 実践的営為こそが「実業」であり、このエートスが「良家の子弟」を「経済面での立身出世に」「動員」し、 「活発敢為」に「好んで困難を行う」「士魂商才」につながるとする。

 最後に阿知羅教授は、福沢に対するこれまでの二項対立的・近代化類型論的解釈を超えて、明治維新と日本近代を、 西欧世界の地球的広がりのなかだけで捉えるだけでなく、「西欧優位の終焉」の始まり、そして「アジア化するアジア」 の始まりの視点から捉えることによって、そこに福沢独自のの独立と民主主義論、 そして『資本論』世界の解釈に新たな地平をもたらす近代の構図を読み取ることを説く。

 報告のあと、福沢の思想の社会と実業人に対する影響、明治期国家形成に対する関わり方、 そして日本の近代化の構図等について活発な議論が行われた。(出席者約20名)
 (文責:経済学部 三ツ石郁夫)