【2014/7/24 経済学部ワークショップの模様】

《彦根の現代史を学ぶ》

彦根庶民の暮しから生きる条件を考える
−統計数値と聞き取り事例、住民による生活問題対策を求める声の関連−

木 和美 (岐阜大学地域科学部教授)

1.市民とは誰か? −彦根市在住の就業者の圧倒的多数が雇用労働者−

 『平成24年度滋賀県統計書』により、2009年7月1日現在の彦根市の就業者の内訳を見た。主な数値を以下にあげる。 ・就業者数は56,616人、 ・全就業者の内、雇用労働者数は、50,543人(89.3%)。 ・全雇用労働者の内、正規雇用労働者は、29,851人(59.0%)。 ・個人業主(無給の家族従業者含む)は、2,215人(全従業者の3.9%)。 ・民間の事業所の従業者総数は、52,493人。 ・全従業者の内、従業員規模30人未満の従業者数は、26,146人(49.8%)。

 雇用労働者と個人業主(無給の家族従業者含む)を合わせると、93.2%が、 「日々自ら労働することにより得た賃金(または自営業収入)で生計を立てている人々」である。 つまり、雇用労働者が、今日の彦根市民の典型といえる。高齢者(元労働者や元自営業主)、 失業者、児童、障がいのある人、傷病者等、自らの労働によって賃金や収入を得ることが困難な人々は、 「働く人々の家族」という位置づけができる。

 1950年代終盤に、全国レベルの就業者に占める雇用労働者の割合は5割を超えるが、 彦根市も同様の傾向がみられた(彦根市:1960年で52.3%)。 1998年に行われた彦根市社会福祉協議会による市民の生活実態調査に、筆者も一調査員として参加し、 各家庭に足を運んで労働・生活歴等の聞き取りを行い、地域分析に必要な統計にもあたった。 その後、『新修彦根市史・現代』の取り組みに参加しさらに統計資料にあたり、 雇用労働者が増大し(女性雇用労働者も増大)、高度経済成長期に核家族が増大したこと、 同時に高齢者世帯も増えていったことなどを確認した。

 高度経済成長期、彦根の工場では生産ラインの機械化を図り、 パートタイマーを活用するようになったことで、 家庭にいて家事・育児や病人の世話をしながらできる内職の需要が減ったという記録がある。 彦根職安と彦根地区労務対策協議会は、婦人会に対しパートタイマー入門教室を開いている。 目的は、「未活用労働者の開拓を農家や家庭婦人におく」ところにあった。

2.1960年代、共働き世帯の増大にともなう保育保障の必要性と市民の要求

 ところで、高度経済成長期の共働き世帯の増大を背景に、多くの自治体は公営の保育 所を設置した。彦根市においては季節保育所が任意団体の地区社会福祉協議会立の保育所とされ、 どうしても措置費の受け皿を作らねばならなくなって社会福祉法人を設立し、 地区社協立保育所をこの法人が運営する施設としている。史料によれば、 少なくとも1950年代半ばから1960年代末まで、地区社協立保育所を市立に移行すべきとの社会事業大会での意見発表や、 請願、議会質問等が続けられた。そこでは、子育て中の世帯の自助の限界や地区住民の相互扶助の限界、 保育サービスの担い手確保の問題等が述べられている。 地区の民生児童委員会代表や地区社協会長はじめ市民こぞっての取り組みは、 彦根市の保育所の経営主体の特徴とともに特筆すべきと考える。
 (木和美)