【2014/11/13 定例研究会の模様】

個人主義的心理傾向の社会性
: 社会関係の流動性・経済的豊かさの影響

竹村幸祐 准教授

 これまでに、心理・行動傾向についての心理学的比較文化研究が幅広く展開され、 様々な文化差が確認されてきた。本発表では、そうした文化差の背後にどのような環境 (特に社会環境)の差異があるかに注目した、2つの研究を報告した。 第一に、社会環境要因のひとつである関係流動性(当該社会における対人関係に関する選択肢の多さ)が、 独自性欲求の持つ適応価にどのように影響するかを検討した一連の比較文化研究を報告した。 社会の関係流動性の高さによっては、独自性欲求などのいわゆる「個人主義」的傾向が、 他者との断絶や孤立をもたらすものではなく、むしろ望ましい社会生活の保持に貢献する可能性について議論した。

 第二に、個人主義的傾向と集合レベルの経済的豊かさの関係を検討した研究を報告した。 過去の比較文化研究によって、個人主義的傾向は、経済的に豊かな社会で見られやすいことが確認されてきた。 本研究では、この相関関係が、個人レベルの相関関係の延長線上にあるもの(だけ)ではなく、 集合レベルで生じている可能性を検討した。中国31省から収集された調査データを分析した結果、 個人主義的傾向と経済的豊かさの間には、個人レベルの相関関係を超えて、 省レベルの相関が存在することが示された。このことは、平均的に豊かな省の住人は、 個人的に豊かであるか否かとは独立に、一定程度、個人主義的であることを意味している。 この知見は、経済的豊かさと個人主義的傾向の関係が、個人内で完結するプロセスで生じているのではなく、 集合的プロセスの中で生じていることを示唆している。

 これまでの比較文化研究は、数多くの文化差を示してきた。しかし、そうした文化差が、 本当に集合的プロセスを通じて生じているのか(すなわち、真に「文化」と呼ぶに値するのか)、 十分に検討されてこなかった。本発表では、個人主義的傾向と経済的豊かさの関係を一つの題材として、 個人レベルで生じる現象と集合レベルで生じる現象を切り分けることの重要性を議論した。
 竹村幸祐(社会システム学科)