【2015/3/30 経済学部講演会の模様】

The BACH〜本もののバッハを聴く〜


大嶋義実 (京都市立芸術大学教授)

ヤロスラフ・トゥーマ (プラハ芸術アカデミー教授)

3月30日(月)午後7時〜8時45分、スミス記念堂(彦根市本町3丁目)において、 京都市立芸術大学大嶋義実教授(フルート)とプラハ芸術アカデミー、ヤロスラフ・トゥーマ教授(チェンバロ)による 経済学部講演会「The BACH〜本もののバッハを聴く〜」を開催しました。 深い学識・知に裏づけられた講演がフルートとチェンバロ演奏で肉づけされることで、 知性、感性、感覚、感情が刺激を受ける、本来的な学びの原点のような場が提供されました。 これはお二人による「チェンバロ&フルートデュオ コンサートシリーズ」第五弾で、過去四回と同様に、 学生、教職員および彦根市内外の方々が楽しく学ぶことができました。

今回初めての参加者も十分満喫できるものであったのですが、前回の「バッハ VS バッハ !? 〜J.S. BachとC. Ph. E. Bach〜」 からの流れも考慮されていました。前回は、最近まで大バッハ作とされていたけれど、実は息子によると思われる作品の読み解きがありました。 つまり「偽もの」のバッハが扱われたのです。対して、今回は「本もの」のバッハ。 導入に、バッハにしてはロマンティック過ぎるため偽ものとされていたが、 バッハが晩年に新時代の息吹を感じて作成された本ものと近年判断されるようになった「シチリアーノ」の解説と演奏がされたことによって、 聴衆はたちまちバッハによる異空間に導かれました。その後は、デュオの「フルート・ソナタ」二曲(ホ短調BWV1034、ロ短調BWV1030)、 チェンバロ独奏の「イタリア協奏曲」をはさみ、ふたたび「フルート・ソナタ」(ホ長調BWV1035)と、バッハの王道と言える曲についての講演、 それに続いてそれぞれの曲が、雄大かつ繊細に、またつややかに演奏され、会場が圧倒されました。フルート・ソナタが太い縦糸に紡がれることで、 バッハの一生を辿ることができ、当時の歴史、文化の背景、宮廷を中心とする音楽事情が明確にされました。 全て、学術的根拠と演奏者の経験に基づいた「本もの」の知と感覚に支えられたもので、 説得力のある講演と公演に、聴衆はみな魅入られてしまいました。

フルートとチェンバロという楽器の特徴、フーガやトリオ・ソナタといった音楽形式、17世紀後半から18世紀中盤のバッハが生きた時代のワイマール、 ケーテン、ライプチヒ等の場所について、参加者は多くを学びました。後半の開始に宮城道雄による箏曲、 アンコールにアルゼンチ出身アストル・ピアソラのタンゴ演奏も交えられ、楽しい意外性に会場の空気が微笑みに満たされました。 この二曲によって、楽器の特徴を捉えることが出来ると同時に、 一流の演奏家の手にかかれば、国も時代も越えることが出来る音楽の普遍性を実感でき、スミス記念堂という、 西洋と日本を融合した和風建築の礼拝堂にふさわしい機会となったと思います。 スミス記念堂は滋賀大学経済学部の前身彦根高等商業学校の英語教師であり、 牧師であったパーシー・アルメリン・スミスの思いにより1931年建築され、1990年代半ば老朽化のために取り壊し寸前に至ったのですが、 有志や彦根市の協力により保存され、現在も特定非営利活動法人スミス会議により支えられているものです。 第二次世界大戦へと向かう時代に彦根で東洋と日本を繋ぐ働きをした先生の気持ちが込められた日本と西洋が融け合った建物でのバッハ、 音楽の力が人の心を優しくすることが感じられる夕べでした。

(前四回の会場であった、滋賀大学経済学部講堂が耐震基準を満たしていず、使用禁止と判断され http://www.shiga-u.ac.jp/wp-content/uploads/2015/03/koudou_seigen.pdf 一度は中止を余儀なくされかけた今回の講演会でしたが、スミス記念堂を提供して頂くことで可能となりました。 多くの方々にご迷惑をおかけしたこと、皆さんのご協力に、お詫びと感謝の気持ちでいっぱいです。 スミス記念堂と同じく優れた音響効果と高い歴史的価値を持つ講堂が、その価値を損なうことなく早急に使用可能となることを願います。)   経済学部教授 真鍋晶子