【2014/12/10 経済学部講演会の模様】

Guns and Butter - But No Margarine
: The Impact of Nazi Economic Policies on German Food Consumption

Jochen Streb (ドイツ・マンハイム大学教授)

 Jochen Streb教授は、日本学術振興会の外国人研究者招へい事業(平成26年度第2回採用分)により、 12月6日に来日し、滋賀大学を受入校として、「ナチ体制とドイツ戦時経済に関する新たな視点の経済史共同研究」 をテーマに研究活動を実施しました。

 本報告はその活動の一環として行われたものです。報告内容は、第二次世界大戦前のナチス体制下(1933年から38年まで) における国民の物的生活水準を対象とし、これまで利用されてこなかった消費データと潜在選好定理を用いて 物的生活水準が改善されたかどうかを検証するものです。これまでの研究史においては、 ナチス政府は経済政策の成功によって「軍備拡大」(Guns)と国民生活の水準(Butter) の両方を達成したと考えられていたのですが、これに対してシュトレープ氏は、1927-28年(ワイマール期) と1935-36年(ナチ期)を比較すると、後者の期間では一人当たりGDPが前者の期間を上回っているにもかかわらず、 消費食料の質においては劣っていたこと、1937-38年においても、消費者は1927-28年よりも悪化した状態に置かれたことを明らかにし、 そうした事実を消費の潜在選好理論にもとづいて、ドイツ国民はナチ政府によって消費抑制を強いられ、 消費者は、国民所得の数値が示すよりもはるかに質素な食事と物的生活水準のもとにおかれたことを結論づけています。

 バターは体制によって強制(配給)された消費のメタファーでした。しかし多くの家計はバターではなく、 より安価なマーガリンを選択しようとしていたのですが、食用油の輸入を必要とするマーガリンは、 外貨節約のために輸入されず、マーガリンの供給も抑制されました。消費は歪められていたといえます。 報告の最後で、Streb教授はより重要な問題として、そうした歪んだ生産と消費にもかかわらず、 体制はなぜ支持されたのかを問題としました。ここで教授は「仮想消費」の概念をあげています。 それは第一に、たとえばフォルクスワーゲン貯蓄プログラムのような先延ばしされた消費であり、 また第二に1936年ベルリンオリンピックのように、個人消費の喪失を補償するために公共財が消費対象として提供されたことを指摘しました。

 Streb教授の報告は、いわゆるナチスの近代化効果あるいはナチ期の「経済の驚異」、 すなわちナチズムによって社会構造の近代化や経済的上昇、完全雇用などの経済発展が進んだとする主張に疑問を呈するものであり、 むしろこの時期の「歪んだ成長」の局面を実証的に明らかにしようとしています。 報告の後の質疑応答では、なぜ経済成長や消費が歪んだのかという点に関わって、 資本主義的発展それ自体に歪みや政治体制のファシズム化の要因があるのではないか、 あるいは消費抑制はドイツ国民自身が健康や環境を意識して自ら望んだのではないという意見が出されました。 Streb 教授の報告は、第一次世界大戦の「敗戦」と1920年代のハイパーインフレ、そして1930年代の大恐慌の混乱の後で、 ドイツ国民が国民経済的「豊かさ」と「国民的誇り」を重視するに至った歴史の連鎖が、ドイツ史の特殊な途に限定されるのか、 あるいはより一般的な地平へと問題を提起するのか、私たちにも考えさせるものでした。
 (文責:経済学部 三ツ石郁夫)

※右上の写真は滋賀大学学長室にて、左から佐和学長、Streb教授、三ツ石教授。