【2014/7/10 経済学部講演会の模様】

Central banking and the divine language: From visual signs to paper currency in Berkeley's economic theory

David R. Hilbert, Professor, Department of Philosophy, University of Illinois at Chicago

 本講演では、イリノイ大学シカゴ校哲学科からディヴィッド・ヒルバート教授を招き、 哲学史・経済思想史に関する発表を行ってもらった。ヒルバート教授の専門は、色の哲学、知覚の哲学、 近世哲学史である。今回の講演は、18世紀アイルランドの哲学者・聖職者であったジョージ・ バークリーの経済理論における紙幣に関する考察を、彼の視覚理論との比較から理解するというものである。

 当時のアイルランド経済はイングランドの支配下にあり、困窮を極めていた。その主な要因は、 アイルランドが独自の貨幣を持っておらず、大多数の貧しい農民や労働者に現金が流通していなかったことにある。 バークリーはこの状況を憂い、迅速に流通する紙幣の発行を提案した。 この提案は三つのポイントにまとめることができる。(1)貨幣自体に内在的価値はない(貨幣は貴重な金属で造られている必要はない)。 (2)紙幣の価値は、財やサービスとの相関関係に由来する。(3)この相関関係は、公共善を目指す中央銀行によって保証されるべきである。

 このような紙幣に関する考察は、一見無関係に思われる彼の視覚理論と構造的に同型である。彼の視覚理論の要点は次の三つである。 (1)' 視覚自体に内在的価値はない。(2)' 視覚の価値は、快苦と結びついた触覚と相関して我々の行為を導くことに使用される点にある。 (3)' 視覚と触覚の相関関係は神によって保証されている。(1)'〜(3)'と(1)〜(3)がパラレルであることは明らかであろう。

 ヒルバート教授による以上の発表は、次の特色を持っている。バークリーの経済理論は哲学史においてあまり注目されることがなかった。 また、それが彼の形而上学や認識論とどのような関係を持つのかについても、十分な考察は与えられていなかった。 バークリーの経済理論と視覚理論の同型性をテクストに基づいて傍証し、 それによって彼の経済理論をバークリー哲学全体の中に位置づけるというヒルバート教授の試みは、 極めて野心的で意義深いものだと評価できる。

 発表後は、貨幣の価値やバークリー理論の功利主義的側面と神の関係などを巡って質問・コメントが提出され討論された。 アダム・スミスに代表されるように、経済学者には同時に哲学者でもあった人物が少なからず存在する。 大思想家の経済理論の理解をその哲学的背景から試みる今回の講演は、 参加して下さった本学部の方々にも刺激的で興味深いものであったのではないだろうか。参加者11名。  (経済学部准教授 西村正秀)