【2013/7/28 経済学部ワークショップの模様】

<近代滋賀県の産業発展と女性の労働・生活・教育>

昭和期における滋賀県女性醸造家の思想
と行動

橋本唯子 (福井県文書館)

 本報告は、ワークショップ「近代滋賀県の産業発展と女性の労働・生活・教 育」第2回目として、「昭和期における滋賀県女性醸造家の思想と行動」をテーマに開催され た。今回取り上げた藤居静子氏は、愛知川町(現:愛荘町)の酒造業の家に生まれ、東京女 子医学専門学校で医学を修めた人物である。藤居氏は医学の知識を活用して自家の経営を改 革し、昭和22年には全国でただ一人の女性候補者として知事公選に出馬、翌年には県内で唯 一女性として教育委員に当選した。その後町内への顔料工場誘致を、環境問題に配慮し反対 して運動を成功に導くなど、多方面にわたって活躍する。しかし、これまで『近江 愛知川町 の歴史』のほかに藤居氏に関わる記述は多くないため、主に彼女の知事公選への立候補につ いて検討することを目的とした。

 まず第1回知事公選について研究史では、官界刷新の手段であり地方制度自体の分権化や民 主化を目指したものではないとされ、候補者の政見などは検討されておらず、それらが有権者 にどのように波及し、地方自治に結実していったかという分析は不完全であると指摘した。

 滋賀県における第1回知事公選をめぐる状況を見ると、全国的に頻出した官選知事を担ぎ出 す動きは、他府県出身の官僚であることを根拠に反対する層により難航する。このような状 況下で藤居氏の立候補は、官選知事が地盤のない地での選挙資金捻出のため隠退蔵物資を横 領する可能性について指摘し、「滋賀県は滋賀県らしい考え方の政治」を目指したものであ った。

 藤居氏は民主主義の昂揚などを訴え、また当時衆議院議員選挙に用いられた制限連記投票 制を批判して知事選挙に立候補したことを主張した。結果は県内第3位であったが、愛知郡内 においては約25パーセントの得票で第2位であり、新聞記事は藤居氏の立候補が婦人有権者の 投票率増加の要因であると評価している。

 これらのことから、戦前型の官選知事による地方統治維持を内務省が企図するなか、女性 候補者が官選知事の立候補を阻止する一因を作り、非官僚出身知事の出現を促したことを、 戦後の地方自治制度確立の過程で意義付ける重要性を指摘した。

 質疑応答では、衆議院議員選挙に立候補する他の女性とは異なり、男性候補者に対する批 判を行っていないことなど藤居氏独自の政治理念について、また第1回知事公選における地 域性や得票数について更なる分析が必要であることなど、様々な意見交換がなされた。 (文責:橋本唯子)