【2013/5/24 経済学部ワークショップの模様】

<近代滋賀県の産業発展と女性の労働・生活・教育>

戦時期近江絹糸紡績会社の発展と労務管理の展開

筒井正夫 教授

 本報告は、今年度発足したワークショップ「近代滋賀県の産業発展と女性の 労働・生活・教育」の第1回目として、「戦時期近江絹糸紡績会社の発展と労務管理の展開」 をテーマに開催された。近江絹糸会社は、昭和29年6月に勃発した大労働争議によって著名で あり、その研究も数多くなされているが、その前史である戦前期の企業経営や労務管理の実態 については、まだまだ解明すべき点が多く残されている。そうしたなかで本報告は、以下の点 を明らかにした。

 第1に、日本は昭和恐慌を乗り切った後、衰退する生糸製糸業に代わって化学繊維部門で著し い発展を遂げ、昭和12年には世界第1位に躍進する。本報告は、その中心地滋賀県において斯 業の中核を担った近江絹糸会社の経営内容を、夏川嘉久次新社長の経営理念、人絹分野への 進出と品質改善への努力、郡是との提携と軍需工業への進出等にわたって克明に明らかにした。

 第2に、特に昭和恐慌を期に郡是を範にとって取り入れられた新たな労務管理の実態について、 特に浄土真宗本願寺派の指導者を招き入れて、工場を精神修養の道場にするという理念のも とに、従業員の生活規範と精神陶冶、労働規律の向上を図り、さらに様々な教養・娯楽・文 化面での充実が図られていった点が明らかにされた。また寄宿舎を備えた近江実習工業学校 や近江高等女学校という学校を設立して、工場での実習と企業教育、社会教育を併せ持った 体制を構築して、女子を多く含む社員教育と労務管理を積極的に推進し、生産性の向上と職 場秩序の安定が図られた実態が明らかにされた。

 第3に、昭和12年の日華事変から16年以降の大東亜戦争に突入するにつれ、「精神修養の道場」 という当初の工場経営の理想は変質を遂げていき、その指導にあたっていた仏教指導者と経営 者との対立も生じ、工場内秩序は、戦時体制への全面的協力姿勢を強め、特に航空機産業に乗 り出して以降は、軍事的統制と緊張が高まっていた実態が解明された。 本報告の主旨は、戦後の大争議のイメージから、戦前期の近江絹糸の動向まで否定的に裁断す るというのではなく、工場経営、労務管理の両面で特筆評価すべき点はきちんと評価すべきと いう観点から、実態解明がなされたものである。

 報告後は、活発な討論が展開されたが、特に戦後争議を担った指導者の方が、実体験に基づ く貴重な発言を披露され、議論が深まった。参加者は、県下の近代女性史を多面的に研究され ている様々な分野の方が約25名集まり、盛況であった。 (文責:筒井正夫)