【2013/11/28 定例研究会の模様】

確率過程の統計的推測とその経済分野への
応用

藤井孝之 准教授

 本報告では、確率過程に対する統計的推測に関する2つの理論研究における成果と、 それらの経済学分野への応用についての報告を行った。確率過程とは時間的な変化を伴うランダム な現象を記述する数学モデルであり、数理ファイナンスを中心に経済学の様々な分野においてすで によく利用されている。特に近年の目覚ましい情報通信技術の発達に伴い、株取引のすべてのやり 取りを記録したいわゆる高頻度データが個人のPCにおいても分析可能となっており、時々刻々と連 続的に変化する現象を記述する連続時間確率過程モデルに対する統計的推測理論の研究は、応用の 面からも大変重要な意味をもつものといえる。

 本報告で取り上げた1つ目の成果は、拡散過程モデルにおける離散観測データに基づく統計的モデ ル選択手法に関するものである。尤度関数と最尤推定量から構成される赤池情報量規準(AIC)は、統 計的モデル選択において中心的役割を果たす統計量であるが、離散観測された拡散過程において、一 般的に尤度関数は未知であるためAICそのものを得ることは困難である。そこで、局所正規近似から 構成される疑似尤度関数を用い、AIC 型情報量規準を提案し、それより導かれる漸近的性質をいくつ か紹介した。また、シミュレーション実験や実際の株価データに対して応用した結果も紹介した。

 2つ目の成果は、ジャンプにより変動するマルコフ過程のノンパラメトリック推定についてである。 はじめに、この確率過程に対する局所時間を定義し、さらにそれが確率積分を用いて容易に表現され ることを紹介した。この結果を用いることで、局所時間から構成された定常密度関数に対する推定 量の漸近的性質の評価が可能となり、さらに、強度関数およびジャンプサイズの条件付き分布に対 するノンパラメトリック推定量の漸近的性質も得られた。この種の確率過程は、保険数理における リスク理論の研究では古くから用いられており、そのような分野への応用に現在関心を持って研究 を行っている。 (藤井孝之)