【2013/7/4 経済学部講演会の模様】

「計画」の20世紀
―ドイツ近代史研究の再構築に向けて―

山井敏章 (立命館大学経済学部教授)

 本講演は、戦後西ドイツにおいて展開した国土計画をめぐる政策当局の 立案過程と地域住民参加の過程を事例として取り上げ、そこから浮かび上がってくる問題 を明らかにすることによって、ドイツ近代史研究の方法を再検討しようとしたものである。

 講演では、まず研究方法について述べられた。それによれば、これまで「社会構造史」派 以来のドイツ近代史研究はナチス体制成立の要因分析に研究の枠組みを収斂させてきたの であるが、最近ではそうした枠組みに変化があるということである。なかでもP.ノルテは、 19世紀末から1970年代を、「合理的で、計画され、科学によって自身をコントロールする 社会というユートピア」が追求される〈モデルネ〉の時代として捉え、この「ユートピア 」はナチ期のホロコーストという最もラディカルな表現をとったのち、さらに戦後民主主 義社会においても合理的計画という形で存続したとする。講演は、こうした新たな「近代 史」研究のパラダイムを検討対象としたのであるが、それは、18世紀以来の個人と市民社 会が権力によって支配されるようになったとするフーコー的近代観に接合するものであり 、20世紀の社会国家(または福祉国家)においても市民の社会的生存権と政治的参加権が 国家のもとに従属し管理されるとみなしている。

 こうした観点を見据えつつ、講演では第一に、「計画」という言葉の背後にある構想や思 考を分析することによって歴史像を構築しようとする〈モデルネ〉論的「言説分析」また は理念史研究の方法を取り上げ、それはナチ期の国土計画プランナーの言説をナチ期から 戦後西ドイツに至る「計画」の「保守的」連続性のうちにはめ込んでいるにすぎず、1970 年代の自治体市民の変化や、計画と格闘した人々の具体的営為を検討していないことが示 された。第二に、戦後西ドイツにおいて展開した都市人口急増に対する周辺部への居住空 間の拡大と分散、さらには都市中心部の再開発の具体的史実についてであるが、それらは、 たしかにプランナーによって「同価値の生活条件」の実現を目的として主導されたのであ るが、そうした連邦によるプログラムは1970年代までにむしろ国土計画に対する懐疑に行 きついたことが述べられた。講演の最後には、〈モデルネ〉の時代においては、「自由」 を保証するはずの法的手段によって逆に個人の「自由」が脅かされるディレンマが生じて おり、そのなかで「規律」からの自由を希求する試行錯誤の過程の重要性が講演者の独自 な視点として問いかけられた。

 質疑応答では、市民革命から19世紀末までの自由主義の時代と1970年代以降の世界におい て〈モデルネ〉の枠組みはどう位置づけられるのか、(モデルネ)の過程に国際的諸関係 はいかに関わるか、規律は近代社会にどのような独自の意義をもつのかなどの質問が参加 者から出された。講演者からも、さらに計画の担い手が官僚から市民へ交代したことの意 味、市民における環境意識の質的転換、社会史的見方とは異なる視点の重要性、伝統意識 の歴史的継続性と改革志向の相互作用、ナチ期と戦後のテクノクラートの役割、1968年運 動の評価、言説分析の可能性などの多様な論点が提示され、講演者と参加者の間で活発な 議論が交わされた。
(文責:阿知羅隆雄、三ツ石郁夫)