【2013/6/18 経済学部講演会の模様】

ヘミングウェイの人生と文学

今村楯夫(東京女子大学名誉教授)

 2013年6月18日、16時10分から17時40分まで、14番講義室において、 東京女子大学名誉教授今村楯夫先生による講演「ヘミングウェイの人生と文学− ヘミングウェイにおける挑戦」が行われました。先生は大学院時代以来、20世紀 アメリカを代表する小説家アーネスト・ヘミングウェイ研究を続け、ヘミングウェ イに関する著書も多く、国内外での研究発表も絶え間なく行い、また日本ヘミング ウェイ協会を発案、設立し、長年会長を務められた方で、本主題についての最高の 講演者をお招きできました。

 先生が制作に関わられたヘミングウェイについての短いドキュメンタリーをまず 上映。ヘミングウェイのほとんどの原稿や手紙などを正式に管理しているボストン のJFKライブラリーからの資料がふんだんに使われていて、波瀾万丈の言葉がこれ 以上似合う人はないと言える彼の人生が展開されました。ノーベル賞受賞時のスピ ーチの際の生の声も聞くことができ、参加者はヘミングウェイの世界に誘われてい きました。

 先生はヘミングウェイの作品のなかの自然描写に彼の本質の一端を示されました。 さまざまな作品の一部を原文と日本語訳で引用。川、水、光、風、雨、木々をとら える鋭敏な感覚、そしてそれを描く繊細な言葉に接し、そこに彼の世界観がいかに 展開しているかを実感させられました。ヘミングウェイが言葉で描いた世界を絵で 再現するように指示され、講演の参加者は、苦労しながらも手を動かし、ヘミング ウェイの世界を体現しました。ヘミングウェイはセザンヌの風景の描き方から文体 を学んだと言っているのですが、参加者の描いたものと先生が持参されたセザンヌ の絵の構図が一致したものがあり、驚かされました。ヘミングウェイの言葉を通じて、 彼が幼少期から青年時代までを過ごし、原点となったとも言えるミシガンの自然から、 アフリカ、そしてカリブ海、キーウェスト、キューバへと1時間半の間に、今村先生 の導きで体験することができました。学生は、身近にあるものごとを観察し、感覚 を広げて接して、普段の生活のなかで「異なる世界を見る」ことの重要さ、楽しさ を知ったようです。また、ヘミングウェイが「特別な誰か」ではなく、身近に感じ られる人なのだとも思えるようになったと言う学生もいました。戦争、釣、闘牛、 アフリカでのサファリなどに真剣に向き合った彼の様々な言葉の世界を知った後、 ノーベル賞のスピーチや、受賞のきっかけとなった『老人と海』の一部を今村先生 とともに読み、既存の何かを超えたものを生み出すことの重要さとその凄まじい大 変さを考えさせられ、さらに、未知なるものに向き合い、また、人間は打ち負かさ れることはないという視点に至ったヘミングウェイの考えを、参加者それぞれに深 く考えさせられる、午後のひとときとなりました。今村先生の著書『ヘミングウェ イの海』のなかの写真家和田悟氏の写真なども示されながら、参加者の五感と知性 に次々に刺激を与えられる貴重な機会となりました。(経済学部教授 真鍋晶子)