【2012/6/16 経済学部ワークショップの模様】

<公共政策ワークショップ2012 第2回>

アートプロジェクトを通じた景観創造−環境社会学の視点から−

宮本結佳 滋賀大学環境総合研究センター講師

 今回は、香川県直島においてベネッセを軸に展開されてきた、現代アートプロジェクトを 通じたまちおこしについてかねてより研究してこられた宮本結佳氏を講師にお招きした。企 業が軸となっていること、現代アートプロジェクトを通じたまちおこしであることという2 点のみでも十分に興味深い事例であるが、当該プロジェクトの展開過程で住民の関わり方が どのように変化していったのかに焦点を当てた今回の講演は、本ワークショップとしてきわ めて興味深いものであった。

 講演は、直島でのプロジェクトのコンセプトとなった「サイトスペシフィックワーク」に ついて美術史における現代アートの位置づけと絡めて簡単に解説することから始まり、直島 の概況や現代史について簡単な確認がなされたあと、ベネッセによる文化事業の展開史が簡 単に辿られた。そのなかで本講演として注目されたのは、1997年「家プロジェクト」の開始、 2001年「スタンダード展」の開催であった。

 家プロジェクトは、直島の本村地区に残っていた江戸期の建造物を素材に現代アート作家 が作品を制作したというもので、角屋をはじめとする4つの家や建物が素材とされた。そのさ い、ベネッセと作家が当該建造物が建築された時期の生活文化を知るために住民にヒアリン グを行った。その結果、ヒアリングを踏まえて作家によって可視化された江戸期の歴史を生 活経験と結び付けることのできる住民たちが、家プロジェクトの来訪者への案内(自らの思 い出の語り部)という独自の役割を担ってゆくことになった。会場が野外とはいえベネッセ 所有地に限られていた1994年企画展の頃にはせいぜい展覧会の来場者でしかなかった住民た ちの第一の変身である。

 それに対して、美術館開館10周年を記念して開催されたスタンダード展は、3か所の地区が 対象となってより多くの住民にとって思い出のある場所が作品化されるとともに、思い出の 時間軸も現代にまで延伸された。こうなると、たとえばある時期に牛小屋だったところが次 の時期には幼稚園となり、さらに卓球場に変貌してゆくというように、場所についての思い 出が重層化されてゆく。この過程で、分からないこと、気になることがあったら互いに尋ね 合うといった住民間の交流も生まれた。こうして、作品のモチーフは、住民たちが呼び起こ した思い出の重ね合わせということになった。つまり、作品=景観は住民の集合的記憶を媒 介に創造されたものというわけである。また、「直島町観光ボランティアガイドの会」も設 立された。つまり、集合的記憶の形成を持続させる仕組みや担い手の確保が果たされたので ある。

 サイトスペシフィックワークという、ある特定の場所を活かして制作される作品、したがっ て設置場所と不可分に結びついた作品であるがゆえに、それへの関心の広がりは観光客を呼び 込むことができる(直島の場合、近隣の島々との連携もあって、人口3千人から4千人の島に 年間60万人の観光客を集客)というばかりでなく、場所とのつながりは住民の生活の記憶、そ れも集合的記憶にほかならず、住民自身が間接的にせよ景観=作品の創造者であるとともに、 その案内者という主体的な役割を果たす。ここには、外部の一方的なまなざしによる地域社会 の消費を防ぎ、むしろ地域住民自身が生活経験を生かしながら積極的に関わり、担い手へと成 長していったというきわめて興味深い町おこしの事例が見出されるのである。

 町並み保全や歴史的景観を観光のターゲットした町おこしの企画は多数あるなかで、なぜ直島 は成功したのか、わが町のプロジェクトを住民を巻き込んだプロジェクトとして成功させるに はどのような要因が欠けているのかなど、参加者(とくに現役の行政職員)にとって質問が次 々に生まれる興味深い講演であり、多数の写真データを含めて大部のパワーポイント資料を用 意して講演くださった宮本先生にあらためて深く感謝したい。                                 参加者 18名   (経済学部教授 梅澤直樹)



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