【2012/5/19 経済学部ワークショップの模様】

<公共政策ワークショップ2012 第1回>

災害復興をめぐる居住政策

山ア古都子 滋賀大学名誉教授

 一昨年度に引き続き、行政と市民との協働による町づくりをテーマに、大学院修士課程 の授業を兼ね、経済経営研究所の支援を得てワークショップを開催させていただくこととなった。地域政策においても、行政がうえから牽引してゆくガバメント型から多様な利害関係者がパートナーとして協働してゆくガバナンス型への転換の必要性を謳われて久しい。じっさい、そうした実践例も数多く生まれている。だが、実践しようとすれば種々の障壁にぶつかってしまうというのも現実であろう。本シリーズでは、興味深い実践を展開されてきた近隣の自治体の現場で活躍されている方々あるいはユニークな試みを実践している自治体の研究者をゲストスピーカーにお招きして講演をうかがうとともに、参加者との意見交換にも十分な時間を用意して実り多きワークショップをめざす。

 第1回は、阪神・淡路大震災での被災という切実な経験を踏まえ、軽んじ得ない震災リスクを抱えた本県で自治体とも連携して精力的に「減災」活動に取り組んでこられた山ア古都子先生をお招きした。「減災」はあまり耳慣れない言葉であろうが、地震を封じ込めることはできないけれどもその惹起する災害は減じることができるという着想を表している。先生は初代環境総合研究センター長を務められた方でもあって、「地震を封じ込めることはできない」という認識には、自然に向かい合う人間の姿勢において、近代科学・技術に依拠した自然の支配=管理を志向した近代人はいささか傲慢に過ぎたのではないか、前近代社会に培われてきた知恵や慣習、くらしのあり方や地域社会(コミュニティ)にも再評価すべきところがあるのではないかといった環境学的問題意識やそれに基づく広く、深い思索が込められていると推察される。じっさい、先生にとって「減災」のひとつの重要なカギは自助や公助に対する「共助」、それを支える地域社会のあり方なのである。

 講演は、震災復興にあたって同じく地方自治の必要性を認めつつ、都市計画(施設)に力点を置いた後藤新平と「住むことは生きること」という認識のもとに高齢者の生活の再建支援に力を注いだ片山善博の対比から始まり、芦屋市や神戸市長田区野田地区の復興の様子の紹介へと展開していった。芦屋市の事例では、倒壊家屋に妨げられて消防車や救急車も通れなかったようなまちのあり方をどのように区画整理するかが課題とされたわけであるが、道路幅を広げつつ、敢えてつながりを悪くして抜け道に利用されない工夫を取り入れたり、路地が果たしていたコミュニティの基盤としての役割を代替する場をきちんと設けたりといった取組が印象的であった。それに対して野田地区の場合、高齢化が進むなかで若者が住める街をめざして震災前からまちづくり協議会が立ち上げられていて、それが核となって「人間のまち」をつくる活発な活動が展開されたということであった。

 多様な利害関係者の協働に基づいてまちづくりを実践しようとする場合、(a)調整に時間がかかりすぎる、(b)そもそもまとまるか、折衷的な妥協の産物に陥らないか、(c)関心は抱いていても「参加」するまでの意欲は持てないし、またその時間的余裕もないといった地域住民が多いのではないかといったことが問題となってくる。野田地区の事例では、急ぐより、小さな集会の積み重ねによって住民同士の認識の共有や住民間の風通しの改善を進めることが優先された。その間、紛糾することも辞さずに、地権者が意見をストレートにぶつけあう機会を設ける一方で、花壇創りや宿舎の建設のために共同作業を行ったり、まちづくりのコンセプトをまとめてゆくにあたって議論をぶつけあうのみでなく、模型を使ってのまちづくりゲームを取り入れるといった工夫もこらされた。また、大学の研究者や学生ボランティアの支援も入って、そうした活動を円滑化するのに寄与した。専門家の参加は(b)への対応にも一定の貢献を期待できよう。(c)については、一部に社交的な人々が存在してうまくリーダーシップを発揮すれば、関心は抱きながら傍観者に留まっている人々にも参加を促すことができたようである。

 総じて、(1)前近代的な地域社会の弊を乗り越えた21世紀の共助は、「お互いの違いを認め合いながら協働できる」という「市民」が「話し合い方や共同の作法」について合意することで「信頼」を醸成し、結論を得るにあたって「腑に落ちる」プロセスを大切にすること、(2)そうした共助を広げてゆくためには、社交的な人々がまず絆をつくって、関心はあるが受動的な人々に働きかける基盤を培うことといった2点がカギをなすというのが、コーポラティブ運動にも論及されての講演のまとめであった。

 狭い地域社会においてストレートに意見をぶつけあって紛糾を生じさせれば収拾がつかなくなるおそれもある。野田地区の場合、そもそも震災前から協議会が立ち上げられ、一定の信頼関係が築かれていたことが重要なポイントだったのであろう。その意味でもまちづくりにはふだんからのコミュニティづくりの努力が大切ということになる。さらに、野田地区の事例でも理解ある行政職員との粘り強い対話に言及されていたが、いわゆるおかみ意識から脱皮した行政職員が増えてきていることにも注目しておきたい。紛糾を深刻化させないために行政がうまく間に入って誘導してゆくこともときには必要となるという点も、一昨年のワークショップで確認されたところであった。

 興味深い事例の紹介を交えて、(a)、(b)、(c)のようなローカル・ガバナンスにとっての本質的課題に示唆的な回答を提供くださった山ア先生にあらためて厚く御礼申し上げたい。
参加者 20名 (経済学部教授 梅澤直樹)



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