【2012/11/9 経済学部講演会の模様】

A Numerical Evaluation on a Sustainable Size of Primary Deficit in Japan

新居理有
(広島大学大学院社会科学研究科特任助教)

 多世代の家計からなる世代重複モデルを用いて維持可能な基礎的財政収支の大きさ を数量的に分析し,日本経済における維持可能な基礎的財政赤字の大きさを考える上でどのような 示唆が得られるかを考察した.Chalk (2000, Journal of Monetary Economics) などの先行研究より, 公債残高対GDP 比率が発散しないためには,政府の基礎的財政赤字が十分小さい必要があることが明 らかにされた.直感的には,公債残高の増加による民間投資のクラウディングアウトが発生すると, 金利が上昇することで公債残高対GDP 比率が発散しやすくなる点が重要なメカニズムである.基礎的 財政赤字が大きければ,それだけクラウディングアウトが発生し公債利子率が高くなるため,赤字規 模は小さい必要がある.一方で,日本財政の維持可能性を分析した先行研究においては,外生的な公 債利子率と経済成長率の大小関係のみに注目することが多く,基礎的財政収支の規模自体が分析対象 となることは少ない.

 本研究は上記の先行研究の流れを踏まえ,日本において基礎的財政赤字を維持するために必要となる 条件を明らかにすることを目指して分析を行った.具体的には,モデルにおいて以下の仮定をおき, 維持可能な基礎的財政赤字に関する数値計算を行った.
{ 資本と労働を生産要素として最終財を生産する,閉鎖経済を考える.
{ 政府は毎期,毎期基礎的財政収支/GDP 比率が一定となるような財政運営を行う
{ 資本収益率と公債利子率の間に,外生的な金利格差が存在する.
分析の結果,基礎的財政赤字を維持し続けるには非現実的と思われる高さの経済成長率を達成し続け る必要があることを示した.具体的には,ベンチマークケースにおいて,少なくとも5:5 %を超える 経済成長率が保持されない限り,基礎的財政収支が赤字となる財政運営を長期間続けることはできな いことを明らかにした.また,家計の異時点間の代替の弾力性の設定値を変化させると,定量的な結 果は変わる得るものの,「基礎的財政赤字を維持し続けるには非現実的と思われる高さの経済成長率 を達成し続ける必要がある」という当初の結論には変わりがないと考えられる.この定量的な結果は, 「日本政府は公債残高対GDP 比の発散を防ぐには,長期的には基礎的財政収支を黒字化する必要がある」 ことを示唆している.