【2012/1/19 経済学部講演会の模様】

志賀原発運転差止請求事件と福島原発事故

井戸謙一
(弁護士、元判事)

 井戸謙一氏は奇しくも昨年の3月末で裁判官を退官し,現在は弁護士として活動 されているが,裁判官在任中の2006年には金沢地裁の裁判長として,志賀原子力発電所二号原子炉 運転差止請求事件の第1審において,運転差し止めを認める歴史的判決を行った.「地震動の想定が 不十分であり,外部電源の喪失,非常用電源の喪失,配管の破断などが起こりえて,多重防御が有 効に機能するとは考えらない」とした判決は,フクシマ原発事故後の今あらためてその先見性から 注目されている.
 ごみ焼却場や火力発電所などの差止請求事件にくらべ,原発においてはなぜか原告側により高い 立証責任が求められている実態や,高度に専門的な技術に関する事柄が係争となった場合の,裁判 所のよるべき判断の基準について,大変分かりやすくご説明を頂いた.  講義の中で,井戸氏は,福島第一原発事故の被害状況も解説し,郡山市に年間1ミリシーベルト を超えない学校施設で教育活動を行うことなどを求めるいわゆる「ふくしま集団疎開裁判」や,福 島第1原発事故の事故原因が究明され,新しい安全指針のもとで安全が確認されるまで,原発を再 稼動させてはならないことを求めた若狭の原発再稼動禁止仮処分事件の原告団の弁護人としての活 動を紹介された.
 これまで,専門家による各種委員会や審議会によってお墨付きを与えられた国側の基準はいわば 一つの権威として,一般市民はもちろん裁判官ですら「素人は口出しをすべきではない」という雰 囲気の中におかれていたように思う.しかしながら今回の原発事故によって,これまで専門家と言 われていた人々の知見の低さが露呈し,専門家にも異なった見方があり,むしろこれまで政府系の 委員などに委嘱されなかった人々の中に,起るべき事態を正確に予測していた人々がいたというこ とも明らかになった.
 三権分立の制度の中で,市民のかかわり方はそれぞれ異なるものの,共通して言えるのは,市民 社会の要諦は,十分に情報がある中で市民が選択をするということだと思う.裁判官であれ,弁護 士であれ,法曹として井戸さんのような方がおられることは,とても心強いことであると感じた.
                                         (文責:中野桂)