【2011/2/21経済学部ワークショップの模様】

Texture in Cultural Backyard X
方言と地域医療の崩壊
―地方で医師が不足する4つ目の要因を探る

八木橋 宏勇 (杏林大学外国語学部講師)

 八木橋宏勇氏(杏林大学外国語学部)に「方言と地域医療の崩壊―地方で医師が 不足する4つ目の要因を探る―」というタイトルでご報告いただいた。事例として、青森県津軽地方 で用いられている津軽方言が取り上げられ、他地域の人にとって難解で有名なこの方言によるコミュ ニケーションが苦しいために医師がその地を去るのではないかという仮説を建て、検証を試みた。

 はじめに、津軽方言の言語学的性質が説明された。この方言は、いわゆる標準語と比較してイント ネーションがかなり異なるだけでなく、日常的な語彙も独特なものが多く、他地域の人が聞き取れず に聞きなおしたとしても理解が困難であることが多くの例によって示された。そして、この難解性の ために、津軽方言が母語でない医師と母語話者である患者との間でミスコミュニケーションが生じ、 深刻な医療問題を引き起こしていることから、近年行なわれている弘前大学医学部の取り組み(「青 森県定着枠」入試の導入や地元文化を学ぶ講義の開設など)が紹介された。現代医療では、医療ミス を回避し、治療に患者の意思を反映させる目的で、セカンドオピニオンやインフォームドコンセント といった、医師と患者のコミュニケーションの重要性が高まっており、また、設備の電子化によりコ ンピュータ画面ばかり見て患者のほうを向かない医師に対して患者が不信感を抱くケースも少なくな いという状況を考えると、医療現場でのコミュニケーションは以前にもまして大きくなっておること は間違いなく、したがって、特に方言主流社会では方言を用いることで医師と患者の間にラポール (共感に伴う信頼関係)を形成することが重要であると主張された。

 また、このような問題は医療現場のみならず、裁判員制度の導入により司法の現場でも同様の問題 があることも指摘された。転勤者などの、津軽方言を母語としない裁判員のために調書に標準語の訳 をつけるケースがあるが、翻訳では迫真性が損なわれ、真意を伝えきれないとの意見が出ているとの ことであるが、これも人の人生を大きく左右するミスコミュニケーションが起こりうる事例と言える だろう。その意味で、今回のワークショップは社会科学ではあまり注目されないものの、実は社会問 題と大きな関連がありうる方言の問題が議論でき、大変興味深いものとなった。参加者4名。
                                                  (出原健一)