【2010/10/2 経済学部ワークショップの模様】

<近現代地域問題研究会>
近江商人の酒造経営
  ―その歴史と経営手腕に学ぶ

佐々木哲也
(NPO法人たねや近江文庫事務局長)

 報告者の佐々木哲也氏(NPO法人 たねや近江文庫事務局長)は、近年、近江 日野商人山中兵右衛門家が静岡県御殿場の出店で展開した酒造経営を克明に分析し、その成果は、平 成22年6月に刊行された『近江日野商人の研究』(松元宏編、日本経済評論社)の中に示されている。 今回は、県下有数の地酒メーカーとして知られる藤居酒造様の会場をお借りして、佐々木氏に研究成 果のエッセンスをお話いただいた。その報告要旨は以下のとおりである。

 【報告要旨】御殿場地方の酒造場の中で最も有力であった山中家経営の酒造店は、幕末・明治初年の 混乱により厳しい経営環境下に置かれた。しかし明治20年代を迎えると経営改革が功を奏するなど回 復をみせはじめ、日清・日露戦争期を経て著しい伸張を示し、大正半ばには酒造高が1800石内外(静 岡県駿東郡全体の3割近くに該当)に達するなど、この間、地域市場確保に成功する。順調な酒造業 は、明治半ば以降の山中家の各種起業・投資活動を資金面で大きく支えることになる。

 その要因は、明治後期の酒造工程では、@有力米穀商を介在として酒質向上に貢献した酒造米の選 択的購入(近江米を一例)とその安定確保が可能となり、A水車精米による作業効率の向上と精白度 の前進B「寒造り集中」による酒造場での仕込み本格化したことが挙げられる。酒造好適米を鉄道利 用によって遠方の有力米穀商から酒造期に合わせて適宜購入する一方、相場や手持ち在庫を勘案しつ つ地元からは機動的な購入で価格抑制に成功している。仕込み本番では「寒造り集中」を可能とする 酒蔵の抜本改良など高額な設備投資に踏み切る一方、人件費(杜氏集団)の相対的抑制が見て取れる。

 明治後期の販売事業(流通過程)では、甲州郡内(山梨県)への販路獲得が進み、明治30年代には 造石高の約半数を占め、山中家の他店との商圏重複も回避できた。一方、こうした自製酒の販売のみ ならず、伊豆韮山支店からの低価格買入酒も加わり、さらに沼津支店を介した他所からの銘柄酒さえ 扱うことで、その品揃えの充実化がはかられるなど、支店間取引の柔軟な活用が功を奏した。

 山中家は、製造過程ではコスト管理にも目配りしつつ、販売力を高める酒質の維持・向上(昭和13年 全国酒類品評会で優等を受賞)に不可欠な原材料の吟味と設備投資を怠ることなく実行し、流通過程 では従来から培われてきた近江日野商人の流通拠点(支店)としての利点を生かしつつ支店間取引き を展開し、ライバル酒造家に抗して商圏確保に成功したといえよう。

 報告後は、活発な質疑応答が行なわれ、また藤居酒造の酒蔵見学会も催された。参加者は、学生・ 一般参加者含め15名であった。                       (文責:筒井正夫)