+ 近代彦根における移民事業―その発端−
【2009/11/26 経済学部ワークショップの模様】

<近現代地域問題研究会>

近代彦根における移民事業 ―その発端−

布川 弘 (広島大学総合科学部教授)

 11月26日(木)、スミス記念堂において布川弘広島大学総合科学部教授に よる「近代彦根における移民事業」と題する講演会が開催された。この講演会も彦根市の開国 150年祭の後援を受け、また経済学部ワークショップ並びにPJ科目の一環として行われた。

 講演の中で布川氏は、新修・彦根市史の編纂委員としてこのテーマに取り組んだ研究成果を披 露された。明治中期以降、彦根の湖岸集落からカナダのバンクーバー等へ多数の移民が行われ るが、従来はその要因として明治29年の大水害やそれまで地域経済を支えていた麻布織・綿作 ・藍作、舟運稼ぎが衰退するという経済的条件が挙げられていたが、布川氏は、それだけでは 説得的な要因にならないとして、次の点を強調された。すなわち、カナダ移民が本格化する明 治27年以前に、ハワイ移民の失敗という経験があり、それを踏まえてバンクーバーにおいては、 製材所などで勤勉に働いて人夫頭等の要職につき、雇い主の信頼を勝ち得ることによって日本 から多くの親類縁者を呼び寄せることが可能となった点を明らかにされた。さらにバンクーバ ーに日本領事館を開設したり、明治27年には移民保護規則を設けるなどした日本政府の支援も 移民事業の促進につながったという。

 そのほか、移民先でのメイドなどの女性労働の実態や女性が本国と比べて自立した高い地位を 保ちえていたこと、また渡航費用の捻出方法やまた現地から故郷への送金がどのように家や村 に貢献したか、などの点についても、彼我におけるイエやムラのあり方の違い等にも触れなが ら具体的に説明された。さらに、日露戦後の排日移民法の実態や太平洋戦争中の強制隔離の実 態、戦後復興期の移民社会の展開についても触れられた。

 講演後の質疑応答では、周囲に移民経験者をもつ市民の方から、貴重な体験に基づく多くの質 問が寄せられ、さらに移民の実態が明らかにされていった。

 以上のように布川氏の講演は、彦根市史編纂・執筆の過程で深められた研究をもとに、近代彦 根の移民事業の実態を新事実も含めて明らかにされた大変興味深く充実した内容であり、参加 者との討論も活発になされ、盛会であった。

 ただし、この日は参加者が学生13名・社会人6名・教官職員4名の計23名にとどまり、この点 残念であった。(文責、筒井正夫)