【2009/11/28 経済学部講演会の模様】

資本コストを用いた会計研究の潮流

村宮克彦(神戸大学経済経営研究所講師)

 株式資本コストを推定する上で、会計情報がどのような役割を担い、 その推定に役立てられるのか。また、株式の資本コストは、企業の公表する会計情報の 量や質、あるいは企業がおかれている情報環境によってどのように左右されるのだろう か。本報告の基本的な問題意識はここにある。
 今回の講演会では、The journal of finance誌(2004年)に掲載されたEasly, David and Maureen O'Haraの論文"Information and the Cost of Capital"を議論の出発点とし て、それ以降にファイナンス領域および会計領域で議論されてきた資本コストの推定方 法の紹介と各々の推定結果を基にした比較検討がなされた。議論をおおまかに区分すれば (1)資本コストの推定のための理論的枠組み、(2)資本コストの推定方法、(3)資 本コストと会計制度とのかかわりという、3つの大きなテーマについて順を追って報告が なされ、フロアの参加者からも随時意見が飛び交った。
 第1のテーマである資本コスト推定のための理論的枠組みについては、前述のEasly, David and Maureen O'Haraの論文を中心に理論的、実証的な議論が紹介された。第2の テーマ、資本コストの推定方法については、主に会計数値をもちいて資本コストをいか に推定するか、という実践的な方法について議論を行った。具体的にはアナリストの配 当予想や成長性予想などを用いたDDM(Dividends Discount Model)や残余利益概念を 用いたRIM(Residual Income Model)、異常利益変化額をモデルに組み込んだAEG (Abnormal Earnings Growth)モデルなど多様な手法が紹介され、その優劣について 多面的に議論を行った。また、会計学領域で提唱されている資本コスト概念である Implied Cost of Equity  Capital(暗黙的に市場が仮定している株主資本コスト) について、ファイナンス領域との相違についてフロアから質問や議論が交わされるな ど非常に有意義な場であった。
 最後に第3のテーマである資本コストと会計制度の関連性については、近年の会計制 度や内部統制のあり方やその変更が資本コストにどのような影響をもたらすかという 実証的かつ実践的なテーマであった。まず、会計ディスクロージャーとの関係として、 企業の意思によって公表される情報の量や質の程度と資本コストとの関連性に着目した 研究や、企業の意思とは関係なく、新たな法制度の導入や会計制度の変更(特に、米国 におけるRegulation FDやIFRS、SOX法などの導入)による資本コストへの影響の有無を 実証的に検証した国内外の実証研究の成果が報告された。会計ディスクロージャー水準 の向上が特定の条件下において資本コストの低下に影響を及ぼすことが明らかにされて きたことは、自発的なディスクロージャーが互酬行為であり、自発的なディスクロージ ャーを積極的に推進するためのインセンティブとなりうるといった指摘や、今後わが国 でも導入が予定されているIFRの影響などについて非常に示唆に富む内容であった。
 今回の講演会では、資本コストをいかに正確に推定するかという学術的問題からはじ まり、最後には非常に実践的なテーマまで幅広い内容を扱っており、フロアの参加者は 教員、大学院生をあわせて4名と小規模ではあったものの、ファイナンス、財務会計、管 理会計といった多様な学問領域から意見が飛び交い、非常に実のある討論が行われた。                 (大浦啓輔)