【2009/11/8 経済学部講演会の模様】

地域産業ブランド再生への道
高島織物の事例に学び彦根の未来を考える

高橋志郎(高橋織物株式会社社長)
野本明成(本学産業共同研究センター長)
廣瀬一輝(廣瀬バルブ工業株式会社社長)
宮川孝昭(彦根仏壇株式会社永樂屋社長)
磯部和夫(滋賀銀行専務取締役)
筒井正夫 (本学経済学部教授)


 11月8日(日)、彦根市井伊直弼と開国150年際の記念行事として第3回 「彦根近現代の歴史ドラマ−シンポジウムと狂言の夕べ−」として、シンポジウム「地域 産業ブランド再生への道―高島織物の事例に学び彦根の未来を考える―」が経済学部講堂 で開催された。この催しは、滋賀大学創立60周年記念事業の後援を受け、経済学部ワーク ショップ並びにPJ科目の一環としても行われた。
 今回は、今年度春から数次にわたって経済学部の創立記念講演会で取り上げてきた彦根地 域の地場産業の歴史と現状というテーマを総括し、湖西地方の高島織物の再生に向けた取 り組みに学びながら改めて地域産業活性化の道を探ろうという趣旨で行われた。まず高島 織物の再生に取り組む高橋織物株式会社社長の高橋志郎氏から大略次のよう内容の基調講 演が行われた。高島織物では、衣料用織物としては紳士用肌着生地を主として生産してき たが、近年は中国製の輸入品に押されており、その挽回を図るためにも地域ブランド再生 に向けて大学との取り組みを行っている。産地組合全体と大学との共同ではなく、まず積 極的な一社と大学との共同でスタートし、製品開発がうまく機能してから輪を広げていく 方針を採り、滋賀大学経済学部と協力して顧客ニーズの把握と基本コンセプトの確立に時 間をかけて取り組み、デザイン開発は滋賀県立大学デザイン学科と共同でたたき台を試作 して服や生地のアンケートモニターを行い、その結果から潜在需要を抽出してアイテム・ デザイン・色・素材等を絞り込み、今度は滋賀県東北部工業技術センターの協力を得て、 新たな素材の開発を行ってい、販売先の市場性の検討とモニタリングも実施している。高 橋氏はこうした県下大学や研究機関との協力による新ブランド開発の苦労や様々な工夫を 披瀝された。さらにそうした経験を踏まえて、滋賀県および彦根における地場産業の現状 と課題を指摘され、歴史に学び、地域資源に立脚しながら異業種の知恵を生かせば新産業 創出まで見据えた真の地場産業再生も可能であると提言された。

 続いて滋賀大学産業共同研究センター長の野本明成氏から、地域産業活性化のための問題 提起として、高島織物と大学等とに構築された「知のネットワーク」の必要性、顧客ニー ズとしては少子高齢化、「個食の時代」、そして環境志向と安心安全志向にシフトしてい る点に留意して新製品開発に取り組むべきことが指摘された。

 これらの基調報告と問題提起を受けて、彦根の地場産業から廣瀬バルブ工業株式会社社長 ・廣瀬一輝氏、彦根仏壇株式会社永樂屋社長・宮川孝昭氏、そして金融サイドから滋賀銀 行専務取締役・磯部和夫氏がパネリストとなり、筒井経済学部教官の司会のもとに今後の地 場産業振興と地域ブランド創出の展望についてディスカッションが行われた。廣瀬バルブ では、産学協同で環境にやさしく低コストで鉛フリーの新製品開発の取組みや大学卒の人 材を時間をかけて育てていく労務管理の必要性が強調された。永樂屋仏壇店では、産学協 同よりもむしろ、分野ごとの職人が集積した立地を生かして競争と相互協力の中で10年、 20年かかって売れていく製品開発の取組みが紹介され、検査制度による品質管理の徹底に よる信用の獲得が地域ブランド創生の基礎にあることが改めて確認された。また滋賀銀行 からは、メガバンクと違う地域密着型の地方銀行の使命として、健全な地域産業の育成と 環境指向型の産業や社会の創出に向けて、諸企業や地域と協力して行っている様々な取組 みが紹介された。

 今回のシンポジウムを通して、現在の未曾有の経済不況の中にあっても、地域の中にあっ て歴史を刻み様々な困難に対処してきた地場産業が、現在も新たな社会環境に適応しつつ 、地域特性を生かしつつ新分野の開発育成に取り組んでいる姿が、明らかにされた。また その中にあって大学がどのような役割を果たしていくべきなのかについても、多くの示唆 に富む報告と討論であった。

 シンポジウム終了後、今回も茂山家によって「太刀奪」の狂言が演じられ、深刻で難しい 話題の後に、さわやかな笑いに場内が包まれ、この笑いに裏打ちされた人間関係の暖かな 結びつきこそ、不況打開の根本策のようにも思われた。参加者は、教官・職員10名、学生 30名、市民100名の計130名で、盛会であった。                          文責:筒井正夫