【2009/7/16 経済学部講演会の模様】

金融危機の意味するもの

高橋 亘 (日本銀行金融研究所長)

 100年に1度といわれる金融危機の中で,我々は現状をいかに理解すべきか。このような問題意識の下で,本学部では,国際経済学・ファイナンス・認知言語学・会計学を専門とする教員によって「世界金融危機の経済学」と題するリレー講義が行われた。講義の最終回として企画された橋氏による講演を,共催という形で受講生以外にも公開したのが本講演会である。
 氏の講演は,景気の現状,金融危機の進展,金融危機への経緯,中央銀行の対応,規制・監督体制という5つの論点からなる。
 まず景気の現状に関して,日銀短観製造業業況判断DI・実質輸出の動向・実質実効為替レートの推移といった実際のデータを示しつつ,短観からみた景気の現状,ごく最近の「景気の底入れ」,今回の景気循環,輸出動向といった点について説明がなされた。なかでも,昨年夏以降の景気後退は原油高が原因である,すなわち世界経済の急成長が資源価格の上昇を招いたため,それが先進国から産油国への所得移転を招いた他,インフレ懸念を生じさせ,利上げが行われた結果,景気が後退したとの指摘は興味深い。
 次いで,米国の住宅価格の下落に伴うサブプライム問題の発生,欧州への問題波及,損失の実態把握の困難,損失額の増額プロセス,G20等における危機対応といった点について,説明がなされた。なかでも,実際にG20に参加された経験に基づく「グローバリズムと同時にリージョナリズムが進む中で日本の立場が問われている」との指摘は説得的であった。
 続く金融危機への経緯については,金融自由化の問題,米国の金融緩和の問題,グローバルインバランスの問題が説明された。金融自由化に関しては,確率・相関の推計に関して過去の平時を前提にしてしまったという新金融商品のリスク評価・管理の問題が指摘された。金融緩和に関しては,J.Taylorの論文に基づき,Taylor ruleから逸脱した大幅な金融緩和を主因とするバブルの発生と崩壊が明らかにされた。そして,グローバルインバランスに関しては,中国のWTOへの加盟の重要性が説かれ,これが中国への直接投資を可能にし,金融危機へとつながる遠因となった点が指摘された。
 中央銀行の対応に関しては,主要中央銀行の政策対応を比較しつつ,利下げ・流動性の供給・企業金融支援について論じられた。なかでも,量的緩和政策や信用緩和政策がUnconventional Policyと呼ばれているが,金融市場の機能回復を行うという点では,本来,Conventionalなものであるとの指摘は興味深い。さらに,今時金融危機の本質的な背景に,欧州系銀行のドル建て債権の問題があったことが指摘された。また,アジアの金融危機と欧米の金融危機とではIMF等の対応が違ったことに対する批判があることが指摘された。
 最後に,規制・監督体制については,自由化のもとでの規制,監督体制の整備,自己資本規制とプロシクリカリティ,マクロプルーデンスの諸点について論じられた。
 以上の報告に対して,政府保証の是非など今後の日銀の信用緩和政策のあり方について,また,金融危機を分析するマクロ計量モデルについて,質疑応答がなされた。参加者は33人であった。 (経済学部准教授 山田康裕)