【2009/6/13 経済学部講演会の模様】

彦根から生糸が織りなす歴史交流〜富岡製糸場から彦根製糸場、そして近江絹糸へ〜

今井幹夫(富岡製糸場総合研究センター所長)
上野輝将(神戸女学院大学名誉教授)
早田リツ子(女性史研究者)
筒井正夫 教授

 この講演会は、彦根市の井伊直弼と開国150年祭主催、本学創立60周年の後援事業として行われ、5月28日の講演会同様、2つの経済学部ワークショップ、2つの経済学部プロジェクト科目の対象としても行われたものである。

 シンポジウムでは、まず今井幹夫・富岡製糸場総合研究センター所長から、明治初期の殖産興業のための国家的大プロジェクトである富岡製糸場の果たした歴史的意義と建物や技術、工場経営の特徴などが興味深いスライドを用いて解説され、そこに全国最多の700名以上を派遣した彦根の位置も確認された。

 次に本学部の筒井正夫から、富岡製糸場を模して彦根に建設された彦根製糸場とその指導のもとに産まれた滋賀県近代製糸業の展開過程が説明され、その中から彦根に近江絹糸紡績会社が生まれ、戦時期には化繊産業や航空機産業に転換しつつ発展し、さらに近江絹糸が郡是に学んで、宗教(仏教)を取り入れた社会教育や学校教育を展開させていき、戦時期にそれが強制色の色濃いものに変質して行った様が明らかにされた。

 最後に上野輝将氏は、戦後の近江絹糸の人権争議の歴史的意義を解説され、併せて三島由紀夫がこの争議を題材に描いた小説『絹と明察』を分析され、三島が描かなかった工女の主体的な立ち上がりの意義やまた仏教を利用した労務管理の問題点を改めて浮き彫りにされた。

 この後、滋賀県の工女の歴史に詳しい早田リツコ氏から、三者にコメントがあり、それを踏まえて会場との質疑応答がなされた。早田氏や会場からの発言では、改めて今回のシンポジウムによって、彦根の近現代の歴史が、全国的な産業史や労働史・女性史との関わりのなかからくっきりと解明され、実証的にも優れた水準を示された点が評価された。また報告者間の近江絹糸の労務管理の実態をめぐる評価の違いも明らかとなった。

 この後、井伊家ゆかりの狂言師茂山家から、この日のシンポジウムのテーマに見合った狂言が上演された。狂言の持つ笑いが会場を包み、また狂言によってさらにシンポジウムのテーマの深い理解が促されるという効果を生み、狂言とシンポのコラボレーションは成功裏に終わった。

 またこのイベントの準備には、大学や彦根市のスタッフとともに、プロジェクト科目の学生が主体的に取り組み、資料の作成から会場設営まで、実に熱心に支えてくれた。講演のあと生協で行われた懇親会でも、講演者や茂山家の皆様、さらに学生たちが歓談し、シンポジウムでは今ひとつ深められなかった相互の交流が実現できた。

 そうした意味でも実に有意義なイベントであった。

※ 参加者 学生50名 教員10名 社会人市民120名 合計180名         (筒井正夫)