【2009/2/13 経済学部ワークショップの模様】

Asian Studies Workshop 四
人と土地との関係史−私的土地所有を超えて

小谷 汪之 (東京都立大学名誉教授)

  「戦後歴史学」という歴史認識の1つの型がある。それを担ったものたちの中心には、すでに戦前から戦中にかけて研究者としての自己形成をおこなってきた人びとがいた。1942年生まれの小谷さんは、そうした研究者たちが大学の教員として講義をしたり、学界の議論をリードしたりするなかで研究を始めた世代となる。小谷さんは、戦後歴史学を、農業と農民と土地制度を対象とした研究がその中軸として展開してきたととらえる。そこでの歴史の見方には、ヨーロッパで形成された歴史の発展論やアジア観の強い影響があったという。土地をはじめとしたさまざまなモノの私的所有を優位の価値として押し広げていった近代という時代と、そうした歴史の展開を「発展」としてとらえてきた戦後歴史学とをともに批判の対象とするのが、小谷さんの議論である。

  報告は、『マルクスとアジア』(青木書店、1879年)、『共同体と近代』(青木書店、1982年)や、『歴史の方法について』(東京大学出版会、1985年)での議論をもとに、来年から刊行がはじまるシリーズの1冊となる作品での論点を紹介しつつ進められた。小谷さんは、アメリカ合衆国によるネイティヴ・インディアンにたいする土地政策に関心があるという。米国は、インディアン・ネイションズのテリトリーであった土地を割り当て制による共同所有地とし、やがて白人が所有できるように、さらには、インディアン・ネイションズ(部族政府)に解体すらおこなった。ここに小谷さんは、近代世界における暴力としての私的所有の形態をみている。

  卑近な例をあげると、われわれが10代、20代のころは、テレビにしても電話にしても、家庭においてひとりが1つずつ持つことに憧れ、それを目指していたようにおもう。それは私的所有とは完全にかさならないが、わたしたちは所有の細分化をはかる傾向があるのではないか。そうしたとき、生活者の神経を「逆なで」にすることを1つの基本としてきた小谷さんにとって、いまもその姿勢はかわっていないように見受けられた。来年の新著の刊行が待たれる。   (阿部安成。出席者9名)