【2008/3/27 経済学部ワークショップの模様】

―Texture in Cultural Backyard U―
「合意形成と協働」

宗野隆俊 准教授

  平成の大合併を経て、2002年4月に3,200余り存在していた基礎自治体の数は、いまや1,800を割るほどになった。大変な減少であるが、当初、政府与党内では1,000という数が目指されていた。平成の大合併は、地方分権改革の流れのなかにあり、さらにその分権改革は、構造改革とも呼ばれる潮流のなかに位置づけられよう。したがって、合併のメリットの大部分は、自治体財政基盤の強化という観点から評価されることになる。また、自治体財政が国の財政に依存している現状では、その基盤の強化が、国の負担軽減の観点からも求められる。
  対して合併のデメリットには、規模の巨大さゆえの非効率、地域の歴史や個性の喪失、新たな「中心と周縁」の発生などの他に,デモクラシーの希薄化があろう。デモクラシーの希薄化とは、たとえば合併によってあらたに誕生する自治体の議会が、旧自治体のそれと比較して、住民を代表する機関としての内実を薄めていくおそれを意味する。   この問題は、合併規模が大きくなるほど深刻な影響をもたらすであろう。これに対応するべく、「地域内分権」という制度が構想され、いくつかの先駆的自治体で実践されつつある。本ワークショップでは、その取り組みの1つとして、上越市(新潟県)の「地域協議会」の制度を紹介した。
  現在の上越市は、旧上越市と周辺の13の町村が合併し、2005年1月に誕生したものである。面積は東京23区に匹敵する巨大なものであるが、人口は約21万人である。合併後の上越市は、13の旧町村部に地域自治区を設置し、そのなかに地域協議会を設けた(なお、合併前上越市の部分については、将来地域協議会を設置するべく検討が続けられている)。
  地域協議会の権限は、@自らの所属する地域自治区に係る事務に関する事項等で、市長により諮問されたものにつき、審議し、意見を述べる、A市長からの諮問事項とは別に、自ら議題を定め、自主的に審議し、市長への意見提出を行うことができる、というものである。
  地域協議会から提出され、表明された答申又は意見を市長が受理し、かつその内容が市政に反映されるならば、地域協議会の答申又は意見は、公共的意思決定の重要な1段階を構成することになる。すなわち、地域協議会の答申又は意見は、それが地域協議会で策定され形成されることによって直ちに正統性を獲得するものではないが、市政に反映されることにより、公共的意思形成の過程で重要な一段階を構成するものである。
  さて、地域協議会は、上記のような重要な意義を有すものであるが、議会ではない。各地域自治区の立候補者が定数を超えた場合は、自治区内で投票が行なわれ、上位の者から上越市長が協議会委員に任命するという形をとる(つまり、公職選挙法による選挙ではない)。協議会委員に報酬は出ない。
  地域協議会の制度は「狭域での意思決定」を志向するものであり、合併による自治体広域化という潮流とは反対の方向を志向しているように思えるが、両者は相補的な関係にあるといえよう。広域化した自治体のなかで、公共的意思形成の審級を多元化し、「狭域での意思決定」を広域化した自治体の政策に反映させる仕組みなのである。このような制度構想は、ある程度のバリエーションをもちながら、今後多くの自治体に導入されていくことが予想される。それらの個々具体の現場で、どのような公共的意思形成の場面が展開されていくのか、研究のフィールドは広く、深いものとなろう。  (宗野隆俊)