【2008/6/26 経済学部ワークショップの模様】

――近現代地域問題研究会――
「近代製糸業の勃興と地域社会
 −富岡製糸場から彦根製糸場
          そして近江絹糸へ−」

筒井正夫 教授

  彦根では、昨年は築城400年祭、今年は開国150周年を記念する様々な催しが行われている。しかし、それによって市民の歴史認識が深まっているとは思えない。むしろ「直弼」で思考がストップしてしまい、その後の彦根の近現代の話がいっこうに現れてこない。とくに、明治初期の殖産興業政策の中で、彦根から全国最多の500名を越える士族の子女たちが遠く群馬の富岡製糸場に赴いて、近代製糸技術を習得し、帰郷した彼女たちを雇入れて、彦根に県営の模範工場である彦根製糸場が創設され、滋賀県や関西一円の近代製糸業の揺籃となったことは、ほとんど知られていない。その発展を金融面から支えたのが彦根生まれの第百三十三国立銀行(現滋賀銀行)であった。そして彦根製糸場の展開のなから大正期に地元資本の雄、近江絹糸株式会社が生みだされてくるのであり、戦時期には航空機産業への転換がはかられ、戦後は、世に名高い大労働争議が勃発するのである。

 こうした彦根の近現代史のなかで、活躍した企業人や働く庶民の姿、戦争の記憶さえ、昨今のお祭騒ぎの中では検証されることもなく、かえって忘れさられようとしている。私はとくに、生粋の地元資本であり、日本近代史のなかでも特筆される意義を持つ彦根製糸場や近江絹糸の足跡、大労働争議の実態については、彦根の近現代史と深く関わってきた本学部として、きちんと史料を収集して残し、関係者への聞き取りを行い、研究を深め、教育に活かしていく義務があると思う。

 本報告は、そうした意図のもとになされた第1回目の研究発表で、とくに彦根と富岡製糸場の関係、彦根製糸場誕生の事情、第百三十三国立銀行との関係、近代製糸業発展とのかかわり、近江絹糸の誕生の経緯など、これまでほとんど知られていなかった事実も明らかにしながらその実態が報告された。

 報告後は、戦後の近江絹糸労働争議の記録映画も上映し、当時の生々しい光景に来会者は感動を覚えた。また争議の先頭に立った指導者の方からの貴重な発言もあった。

 参加者は、本学学生・院生10名、教官・職員10名、社会人15名の計35名である。社会人の中には、愛知県からわざわざ来られた方もあった。

 今後とも、彦根にかぎらず、近現代の地域社会に生起した様々な問題をテーマに、研究発表会を積み重ねていきたい。とくに、ここ10年にわたって、あらゆる史料を渉猟して進められてきた彦根市史編纂事業の近現代部門に携わった専門家(筒井もその一人)の方々には、その貴重な研究成果を発表していただくつもりである。                          文責:筒井正夫