【2008/11/4 経済学部講演会の模様】

「混迷するグローバル時代の企業戦略
   〜新しいビジネス戦略の創造〜」

永池 克明
  元東芝アメリカ社副社長・
  久留米大学ビジネス研究科教授

 1、 世界的金融危機と実体経済重視回帰への動き
 2008年にはいり、サブプライムローン等を組み込んだ「証券化商品のいっそうの暴落」や「CDS〔クレジット・デフォルト・・スワップ〕」による金融派生商品の多額支払いの発生等々による欧米金融機関の経営危機と、それに伴う国際的金融収縮による世界的金融危機が発生し、収束の兆しは見られない。世界の金融中心地である米国では、3月16日にJPモルガンが全米5位の証券会社ベアースタンズを救済合併し、7月13日に住宅金融機関ファニィメイ・フレディマックへの公的支援、9月15日全米4位証券会社リーマンブラザーズの破綻、9月16日AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ、保険会社)の公的管理への移行、11月には全米1位のシティグループ株式の暴落、等々「金融安定化への取り組み」が緊急の課題となっている。それとともに1980年代から過熱化し始めた「マネーによるカジノ資本主義」や「ファンド資本主義」への反省が起こり、「マネーから実体経済重視への回帰の動き」も強まっている。今回の講演はそのような動きに答えるものとして企画されたものである。

2、講演者の経歴と講演会場の様子
 上述のような状況下で、東芝に36年間勤務し、その間、東芝アメリカ副社長、東芝本社経営企画担当部長、本社国際本部アジア総括事務所企画・支援部長、参与・経営トップ特別補佐等を歴任し、2003年4月から2007年3月まで九州大学大学院経済学研究院教授・九州大学ビジネススクール教授を勤められ、現在久留米大学大学院教授の永池克明氏に、電気産業を中心にしてグローバル時代の製造業の企業戦略について、1時間30分にわたって熱く講演していただいた。
 会場である大合併教室は、グローバル時代の製造業の最新の企業戦略についての情報を聴講しようと、立ち見も含め教員・院生・学生等約550名の大観衆で埋め尽くされた。このような中で、小西経済学部長の永池氏への謝辞と講演者の経歴紹介の後、綿密に作成されたパワーポイントを基に講演が開始された。
 永池教授は、教壇の前で話をするのではなく、会場内を歩き、時折り学生に質問を行うなど、終始みんなと共に考えるという、従来の講演スタイルとは異なる精力的な話し方で講演をすすめられた。そのため聴衆も、普段以上に講演に集中していた様子であった。

3、 講演内容
 聴衆に配布されたレジュメの項目は、@.グローバル化とデジタル化の潮流とインパクト、A.競争条件の変化、B.アジアの役割の拡大と競争と連携、C.日本の対応と企業の戦略、であった。
 講演に先立ち、山口大学経済学部(旧山口高商)出身の永池氏は、日本中の旧高商系経済学部の置かれている現状と、社会に出て通用する人材として「学問秀才」と「企業秀才」に分類して、後者になれと、滋賀大生に熱いエールを送られた。また在学中の勉強の仕方にも言及された。
 講演内容の主要な点としては、まず1.グローバリゼーションの新展開とネットワークとして、@グローバリゼーションの進化、Aデジタリゼーションの進化、BBPO(Business Process Outsourcing)の時代〜自社の、ビジネス・プロセスの多くの部分を国際戦略提携により、世界各地からアウトソーシングする時代、C繁栄する都市・地域とBPO、D工程間分業ネットワーク、Eモジュール化とBPO、について事例を挙げながら説明された。
 つぎに、2.モジュラー化(コモディティ化)の進展と日本企業のジレンマとして、 @デジタル化とモジュラー化(コモディティ化)の挑戦、Aアジア企業のキャッチアップ B価格低下と収益悪化のジレンマについて、現状分析をされた。  最後に3.今後の展望として、@日本企業とアジア企業の競争と補完、Aグローバル競争市場でのKFS〔成功の鍵〕として〔@〕競争優位性の確立:日本の強みを生かす、〔A〕国際相互補完戦略:国際戦略提携 を指摘され、B日本企業の課題として、競争力確保のための新しいビジネス戦略の創造、すなわち日本企業は我が国における文化風土、そしてそこで培われた組織能力にふさわしい持続的国際優位性を維持できる新しいビジネス戦略を創造することが必要であると強調された。
 一方、グローバル化はアジアにおけるすべての面で連携と同時に、競争を促しており、それは物流面・金融面等でのアジアのハブ機能獲得競争、観光面での都市間競争等々多岐にわたっていると指摘された。また、こうした競争と同時に、環境問題・エネルギー問題等、人類に突きつけられた共通的課題に対し日本の経験と技術力をどう活用すべきか、それを担う人材をどう育てていくかも今後の課題であるとされた。
 「マネーから実体経済への重視について、世界経済をいかに再構築していくかについて」非常に示唆に富む講演であった。                     (経済学部教授 有馬敏則)