【2008/5/12 経済学部講演会の模様】

アイルランドのゲール語文学と
アイルランド詩人であること

ヌーラ・ニー・ゴーノル
(詩人)

  アイルランドの詩人、ヌーラ・ニー・ゴーノルは、詩をすべてアイルランド語で書く。アイルランドでは、現在、アイルランド語が国の言語と定義されているが、極一部に存在するアイルランド圏以外では、長い英国支配により強制されてきた英語が、人々が日常的に用いる言語となっている。ゴーノルも散文や日常のコミュニケーションには英語を用いる。両親が英国で医者をしていたため英国で生まれたが、5歳の時から、アイルランドのケーリー地方のアイルランド語圏に暮らした。彼女は最初詩を英語で書いていたが、何かおかしいと常に感じていた。自分はアイルランドの詩を英語で書いているのだと気づき、16歳の時アイルランド語で詩を書き、まさにこれこそ自分の声だと感じ、以後、アイルランド語で詩を書き続けている。彼女は自分の詩を英語に翻訳することはしないが、アイルランドの超一流の詩人たち(シェイマス・ヒーニー、ポール・マルドゥーン、メーブ・マクガキアン、マイケル・ロングリーなど)が彼女の詩を翻訳している。翻訳によって何かが失われるのは確かだが、自分もロシア語を読めないから、大好きなチェーホフも翻訳によって読むように、自分の詩をいろんな人に翻訳で読んでもらえればうれしい。詩の力を捕えてくれれば翻訳は彼女の心を伝えてくれる。翻訳してくれている詩人のなかでも、詩人としても高く評価しているマルドゥーンを特に気に入っている。詩人として高く評価しているだけでなく、彼がもともとアイルランド語で詩を書き、その後英語に変えたことが彼女の経歴の逆である点、また彼はわからなければはっきりわからないと彼女に言い、彼女の方も彼の言葉の選択に不満ならはっきり言える点によさがあるという。
  このように翻訳について、アイルランドにおける言語の問題について、詩を作ることについて、アイルランドにおける女性詩人の立場について、神話と現在が併存している彼女の詩の世界/世界観についてなどを、自作の8つの詩をアイルランド語と英語で朗読すると同時に語った。アイルランドと英国の詩の伝統をふまえる現代最高の詩人としてアイルランドの国立3大学の「アイルランド詩教授」に任じられて、2002年から3年間つとめ、アメリカの様々な大学で講師として授業も担当している。人魚が地上に上がってきたことを、アイルランド語と英語の関係の比喩として描いた一連の「人魚詩」が昨年出版され、現在は次のプロジェクトとして、ある特徴的な韻律と形式をもつアイルランドの古い詩型に基づいた詩を書く事、また、以前やっていたようにダブリン大学の古文書館で日々アイルランドの古い写本を読み自己の詩の源になるものを蓄える事に取り組みたいとのことであった。帰国直後には彼女が見つけ出した古い歌(シャン・ノス)に彼女の詩や古いアイルランドの詩を合わせて開くコンサートを行う。アイルランド語は博物館入りの生きていない言語なのかという質問に、現在はアイルランド語のテレビ局やラジオ局も、人気番組もあり、若い人たちの力がアイルランド語に反映されていると、アイルランドのことばの未来を明るく伝えてくれていた。 (真鍋晶子)