【2008/2/14 経済学部講演会の模様】

非営利組織会計の現状と課題

今枝 千樹
(愛知産業大学経営学部講師)

   本報告は,アメリカでの議論を手がかりとしながら,非営利組織の業績評価に役立つ会計システムのあり方を検討することを目的としたものである。まず,アメリカの財務会計基準審議会が公表した概念書および基準書が概観される。すなわち,概念書第4号は,顧客の満足や問題状況に対する影響を含むサービス提供の成果についての情報を,非営利組織における「使命の達成度」の評価に役立つ情報として提供する必要があると主張しているという。また基準書第117号は,資産の使途拘束に対応させた形で純資産の金額および性質についての変動の期間的測定に関する情報が提供されることを規定しているという。しかしながら当該情報では,概念書第4号で要求された「使命の達成度」を表わす情報,すなわち「非営利組織のサービス提供の努力と成果」とりわけ「サービス提供の成果」の情報が提供されない。したがって,氏は,非営利組織における財務報告において業績評価に有用な情報を提供していくためには,当該非営利組織における使命の達成度の評価に役立つ情報を含める形で,会計情報を拡張する必要があると主張する。
 その際,非営利組織に先駆けて業績報告について議論された政府会計における成果を手掛かりとしつつ,交換関係の欠如および市場とのかかわりの希薄性は,程度の差はあるにせよ,非営利組織におけるそれときわめて類似しており,かかる活動環境の類似性に,政府の財務報告で求められるようなサービス提供の努力と成果の報告を非営利組織に適用する必要性と可能性が伏在していると,氏は主張する。
 さらに,アメリカにおけるサービス提供の努力と成果の報告の先駆的事例としてキリスト教児童基金を取り上げ,そこから,以下のような含意を氏は導き出している。すなわち,同基金が従来の会計情報の枠を越えた自らの活動成果に関する情報を積極的に公表しているのは,同基金が使命遂行に向けて活発な活動を不断に続けているからである。このことから,非財務情報による活動成果に関する情報が,非営利組織に対する資源提供者の資源提供行為に重要な影響をおよぼす可能性があると推察される。というのは,非財務情報による成果情報を公表している組織は使命遂行にむけて活発に活動を行っているとの評価にもとづいて,資源提供者はそうした非営利組織により多くの資源提供を行うであろうからである。したがって,非営利組織においては,非財務情報による活動成果の報告基準が公式的に確立されていないとしても,財務報告において非財務情報を自発的かつ積極的に提供していくことは,以上のような意味においてきわめて重要な効果を有するといえる。
 報告の途中および後で,非営利組織の業績情報を仲介したり,自ら寄付者からの資金を非営利組織に分配するような中間支援組織のあり方などについて質問が出され,活発な議論が行われた。