【3/30 経済学部ワークショップの模様】

―Texture in Cultural Backyard―
「ラテンアメリカにおける歴史認識をめぐる論争―軍政・内戦の傷をいかに記憶し、癒すか―」

北條 ゆかり 助教授

 北條報告は、「ラテンアメリカにおける歴史認識をめぐる論争」を論じるにあたってまず、エリック・ウィリアムズ(1964年に刊行されたその著作は1979年に『帝国主義と知識人』として訳された)やエドゥアルド・ガレアノ(1971年に刊行されたその著作は1986年に『収奪された大地』として訳された)に始まる、ラテンアメリカ史研究における歴史認識を文化研究(Cultural Studies)のさきがけとして紹介した。ウィリアムズたちの議論はその後、従属(理)論という研究動向につながることとなる。そして、「1980年代以降、従属論は経済の領域では廃れたが、歴史観(植民地経験を重視するもの)としてはラテンアメリカ社会に広く浸透してい」き、それが、1992年の「コロンブス500年」の前後には、ラテンアメリカ版自由主義史観というべき動向への批判の論拠となったという。
このように研究動向をとらえたうえで、「軍政・内戦の傷をいかに記憶し、癒すか」を考えようとしたとき、「ラテンアメリカ」は、それをひとまとまりとして論じることができなくなる。「トラテロルコの夜」とよばれる1968年メキシコでの国家テロリズムと、1960年代から1990年代までの長期にわたるジェノサイドというべきグアテマラでの大規模殺戮とでは、その出来事へのその後の対応が異なる。北條は、その出来事の真相究明と和解の希望をみいだせるグアテラマを対象として、さきに記した「軍政・内戦の傷をいかに記憶し、癒すか」を展望しようというのである。
グアテラマでの国家テロリズムのその後をとらえるには、真相究明委員会と歴史的記憶の回復プロジェクトによる真相究明・真実追及活動と、ジェンダーやエスニシティに配慮した紛争犠牲者への支援と補償という2つの視座をとることとなるという。そのなかでも北條は、歴史的記憶の回復プロジェクトによる、「アニマドーレス」とよばれる事例を紹介する。それは、「文化や言語、恐怖の体験を紛争犠牲者と共有する、村々の志願者のなかから半年間にわたる訓練(紛争の歴史、メンタル・ケア、インタビュー技法など)を経て養成された」、紛争の犠牲者もそのなかにふくまれる調査員がおこなう、犠牲者からの聞き取りである。
この歴史的記憶の回復プロジェクトの活動をみわたしたうえで北條が示した「歴史が記録されることの意義」とは、記憶が正史にとってかわるだけでなく、その記憶を共有する人びとが、自分たちの共同性のもととなる関係性を開いてゆく可能性だという。今回のワークショップの北條報告は、彼女自身が訳したエレナ・ポニアトウスカの『トラテロルコの夜−メキシコの1968年』(藤原書店、2005年)と、『グアテマラ−虐殺の記憶』(歴史的記憶の回復プロジェクト編、飯島みどりほか訳、岩波書店、2000年)のあいだから、「記憶」が問題とされるようになった現在にふさわしい、過去の記録としての歴史を展望するきっかけとなった。16名出席。(経済学部助教授 阿部安成)