【2/13 経済学部ワークショップの模様】

―Texture in Cultural Backyard―
「アメリカ社会における「協働」と非政府主体」

宗野 隆俊 助教授

 アメリカには,福祉政策領域に投入される資源が少ないというイメージがある。これは一般的なイメージにとどまるものではなく,比較福祉国家論において彼の国は,いわゆるヨーロッパの福祉国家と対極をなすものとして扱われてきた。
 連邦政府は,1930年代のニューディールにおいては金融政策や労働政策,60年代の「貧困との戦い」においては対貧困政策など,内政の重要分野への介入を深めたが,それが長期的な政策基調をなしたとはいえない。また,60年代の貧困対策がいわゆる「スラムクリアランス」を惹起し,政策が対象とした人々の生活に混乱をもたらす要因となったことは,広く知られるところである。
 さて,今回の報告では,アメリカ社会における貧困問題の象徴である住宅問題と,それへの非政府主体の取り組みに焦点をあてた。報告者が定期的に調査を行ってきたサンフランシスコでは,都市再開発圧力が高く,中・低所得層の住宅問題が最重要アジェンダとなっている。ただし,この問題に政府(連邦・州・市)が直接介入する――すなわち低所得層向けの公共住宅を政府が直接供給する――のではなく,CDC (community development corporations) と呼ばれる非営利法人がアフォーダブル住宅の供給主体として活動してきた。サンフランシスコには地域を代表するCDCが10前後存在するが,特に有力なものは,3,000から4,000もの世帯にアフォーダブル住宅を提供している。しかし,コミュニティ開発法人の社会的機能は,これにとどまらない。その他にも,@雇用創出,A非熟練労働者に対する職業教育,B高齢者や児童への近隣保全的サービスの提供,C起業希望者に対する少額融資などがある。ここから,CDCが福祉政策領域における「協働」を支えるアクターであることが了解されよう。
 さらに特筆すべきことは,市政府による都市計画策定の経過に合わせて近隣住区(neighborhood)レベルでのコミュニティ集会を重ね,計画に対するオルタナティブ案を策定するコミュニティ開発法人が存在することである。この法人は,上記の諸機能も当然に果たしている。CDCがこれだけの事業を展開するには,連邦を中心とする各レベルの政府からの補助金,インターミディアリーと呼ばれる中間法人を介しての資金援助,私企業や個人からの寄付といった様々な財源が寄与している。
 報告で十分に検討する余裕がなかったが,今後,報告者が最も追求したいテーマは,CDCのような非政府主体が上記のごとき「公共的な」機能を担うことに対する社会的合意の拠り所である。その合意の形成史をたどることにより,アメリカ政治文化における「公共」の意義,ひいてはアメリカ社会における「公共」の意義に多少なりとも接近できるのではないかと考える。
 なお,討論で,この報告の論点が,近年私法学の領域で議論される「民営化 (privatization)」研究に通じるところがあるのではないかとのご指摘をいただいた。今後,深く,そして広く掘り下げたいと思う。出席者6名。(経済学部助教授 宗野隆俊)