【2008/1/8 経済学部ワークショップの模様】

―Asian Studies Workshop 参―
大陸に興奮する修学旅行:20世紀前期の
山口高等商業学校にとっての「満韓支」

阿部 安成 (教授)

  1月8日のWSでは、午前中の高媛氏の報告に続けて、午後は阿部安成氏の報告が準備されていた。滋賀にいながらにして、日本近現代における大陸旅行史研究の、それもトップレベルの議論を続けて聞くことができたのは有難かった。
 阿部氏の報告は、山口高商において行なわれていた海外修学旅行についてのものであったが、これは氏が継続的に取り組んでおられる高商史研究の最新成果である。氏の研究は、アジアの中の日本、また日本と大陸との関係という枠組みの中で高商の歴史を考察するところが特徴のひとつであると思われるが、山口高商では学校としての方針の中に「本校ノ卒業生ハ成ルヘク満韓地方ニ従事セシムル目的ヲ以テ教育スルコト」を明確に掲げており、第一回入学生が三年生になった時点で、早くも最初の満韓修学旅行が実施されている(鉤括弧内の引用は、当日配布レジュメより。以下同じ)。これは、朝鮮半島と近接する山口という場所の地理的条件による部分も大であるが、その一方で東京・神戸高商との差別化(「東京及び神戸(第二)の両高等商業学校が広く対世界的の商業知識を授けたに対し、本校(長崎高商、筆者注)及び山口(第四)の両校は、特に東亜の開発を目指して其教育方針を定めた」)といった事情なども指摘できる。このことは、たとえば彦根高商と「東亜」との関係や、海外修学旅行の実施の背景について考える上でもヒントになるであろう。
 さて、今回の報告中、もっとも興味深かったのは、高商での修学旅行という経験が、高商生たちの国家観や歴史認識などに与えた影響について論じた部分である。旅行を通じた意識・感覚への影響や新たな知識の獲得などの状況は、実際には旅行者個々人によって様々に相違する。だから、阿部氏が修学旅行での戦跡見学について、そのことによって国民意識の昂揚を味わう高商生もいたが、「昔はつまらぬ戦をしたものだ」と呆れる高商生もいるなど反応は多様であり、それは高商生にとって大きな幅のある選択肢の中のどれを選ぶか迫られる体験であったとした点には、共感を覚えた。
 旅行を通じた意識・感覚の変化について、そこに時期毎・時代毎の傾向が存在するかどうかは、丹念な史料分析を通じて解明するほかない。しかし、旅行者による日記・紀行文などの記録類は、旅行が終わった後に編集されていたり、また別のテキストに依拠して制作されることなども往々にしてあり、そこに旅行者の生の感想が表現されているとは限らない。報告中での「想像された大陸をめぐる興奮」が冷めたところに「日本の国土や故国の風光への賛美が膨張した」という議論は、大枠において納得できるものであったが、今後は阿部氏自身も言っていた通り、「高等修学旅行の史料から、国土観や国の風光をめぐる感性をていねいにたどる作業」が、史料批判を含めてより一層必要になるであろう。
(蛇足ではあるが、今回のWSでの高媛氏・阿部氏の報告を聞きながら、このお二人を中心に、歴史学以外の人にも参加してもらって、いつか滋賀大で旅行・観光論シンポジウムを開催できないか?とふと思った)。出席者5人。(青柳周一)