【2007/8/3 経済学部ワークショップの模様】

―Texture in Cultural Backyard U―
「記念日の創造―ディズレイリの記憶とプリムローズ・デイ―」

小関 隆(京都大学人文科学研究所准教授)

 小関隆さんは、昨年末に『プリムローズ・リーグの時代−世紀転換期イギリスの保守主義』(岩波書店)を出し、今年2007年には編著として『記念日の創造』(人文書院)を発表しました。またかつての彼の研究成果には、共編著として公刊した『記憶のかたち−コメモレイションの文化史』(柏書房、1999年)もあります。こうした仕事をしてきた小関さんの報告の主題は「ディズレイリの記憶とプリムローズ・デイ」となっていましたので、このワークショップでは、記憶と記念について議論をすると予告されていたわけです。
 ディズレイリ(Benjamin Disraeli,1804-1881)とは、英国の首相をつとめた人物。『クマのプーさん』で知られるA.A.ミルンの文章――「ディズレイリの故事にならって、自分の像にプリムローズを飾るのか」がまず紹介されて、ディズレイリとプリムローズのつながりが示されます。この両者の結合の由来は、ディズレイリの病床を見舞った女王がプリムローズを彼に贈ったこと、葬儀にもその小さな花輪が女王から贈られたことにあり、そして彼の没後にその銅像が建てられたとき、除幕式でもプリムローズが用いられ、その後、彼の命日がプリムローズ・デイとよばれ、その日には彼の銅像がプリムローズで飾られるようになりました。こうした伝統の創出が説かれます。彼の議論の要諦は、このプリムローズ・デイの反復と国民的英雄としてのディズレイリ像の造形が、イギリスの保守主義(ポピュラー・コンサヴァティズム)につながるというところにあります。
 論述の詳細は前掲書にゆずるとして、小関報告の組み立てを述べると、それは1990年代以来の社会史と国民国家論の方法をふまえた歴史記述の一端となっていました。この十年のあいだにおこなわれた歴史の読み書きをめぐる議論を経て、1つの作品が書かれ、その一部がこのワークショップで披露されました。ディズレイリそのひとの政策や支持基盤ではなく、彼をめぐる記憶や記念が考察の対象となり、さらには、いわば彼の歴史化を超えるプリムローズ・デイのイヴェント性を観察して、そしてもう1つ、「伝説」の否定もみすえたところで、「政治」を議論するという手法が用いられています。歴史が表象としてとらえかえされているといってもよいでしょう。そして、小関さん自身も気づいているでしょうが、この十年で議論はそのつぎへと動き出しているはずです。つぎの機会には「そのつぎ」を議論するとしましょう。出席者9名。(阿部安成)