【12/23 経済学部ワークショップの模様】

―Asian Studies Workshop 弐―
プレシンポジウム
 「引揚研究のフロンティアをめざして」

【報告】
第1報告:「「満洲引揚資料」とその読み方」
              阿部安成(滋賀大学)
第2報告:「戦後日本社会にとっての「満洲」
       ―満洲体験、中国残留体験を手がかりに」
              蘭 信三(京都大学)
コメンテータ:大野 俊(九州大学) 福間良明(香川大学)
司  会:大久保明男(首都大学)・松浦雄介(熊本大学)

 今回のワークショップは、科学研究費補助金基盤研究(B)(1)蘭(あららぎ)班と滋賀大学経済学部ワークショップAsian Studies Workshop弐の共催による、プレシンポジウム「引揚研究のフロンティアをめざして」となった。報告者は、本学部の阿部安成と、京都大学の蘭信三。  阿部報告「「満洲引揚資料」とその読み方」は、滋賀大学経済経営研究所調査資料室が保管する「満洲引揚資料」を歴史化する作業の手始めとなった。すでに、『彦根論叢』(第348、349号、2004年5月、7月)に掲載した論考「「引揚げ」という歴史の問い方」(阿部と加藤聖文との共著)で示したとおり、この「満洲引揚資料」は、『満蒙終戦史』(満蒙同胞援護会編、河出書房新社、1962年)や『満洲国史』総論・上巻、各論・下巻(満洲国史編纂刊行会編、満蒙同胞援護会、1970-1971年)を編纂するための元となった資料や原稿などの集合である。史書編纂のための元資料があれば、その編纂物の制作過程を再現できるという見通しは、とてもかんたんに思いつく。「満洲引揚」の実態を、それを著わした史書の原初にさかのぼって明らかにしようというわけである。 そのうえで、わたしのいう歴史資料の歴史化とは、「満洲引揚資料」をそれがつくられた当時の歴史のなかにもういちど置き直して、同時に、現在のわたしたちの「満洲」と「引揚げ」と「資料」についての考え方をとらえ直すという試みとなる。簿冊の表題についての目録がほぼできあがった「満洲引揚資料」については、できるだけはやくその目録を完成させ、閲覧をめぐる規程を整備して、公開することを予定している。 蘭報告「戦後日本社会にとっての「満洲」―満洲体験、中国残留体験を手がかりに」の課題は、日常においてみぢかに死を経験した人びとの体験談を聞き、その「語りの力」によって衝撃をうけたという蘭自身の経験をふまえて、体験者たちからの聞き取りをとおして、戦後日本における「満洲」の意味を考えることにあった。引揚げという出来事をめぐる記憶は、その体験者にとっても体験共同体にとっても、それを語ることが困難であるという難点を抱えている。そうした記憶をなぜ聞き取らなくてはならないのか。蘭はそれを、戦後の日本社会において抑圧された記憶を掘り起こすことにより、個に即した「生きられた歴史」を知る、「語りの力」をとおして認識の局面を転換させる、体験者の語りが「マスター・ナラティヴ」(社会の公式の語り)や「モデル・ストーリー」(開拓団の集団の語り)を相対化する、といういわばわたしたちの知の組み替えの試みとして説明した。 戦後の日本においても中国においても否定された「満洲」を、それにかかわった個の体験からとらえかえすことで、わたしたちの戦後思想を問い直す展望が示されたといえよう。蘭の論述は、『満州―記憶と歴史』(山本有造編、京都大学出版会、2007年刊行予定)に収録される。出席者34名。(経済学部助教授 阿部安成)
 
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