【9/13 経済学部ワークショップの模様】

―Asian Studies Workshop 壱―
「非文字資料のデジタル化と歴史学研究への可能性

貴志 俊彦 氏(島根県立大学大学院北東アジア研究科)

 貴志俊彦さんは、ご自身の研究室ホームページ(http://www.u-shimane.ac.jp/t/t-kishi/)で、多様な情報を発信しています。そのなかでも、わたしたちは特に、「戦前期東アジア絵はがきデータベース」(http://gsv.u-shimane.ac.jp/t-kishi/postcards/)に着目しました。また貴志さんは、鳥取県米子市南部町の祐生出会いの館でみつかった「満洲国関係ポスター」の整理にもかかわり、それがNHKテレビでも放映されました。ポスターや絵はがきといった「非文字資料」の公開と意義については、貴志さんのお仕事をはじめとして『日本経済新聞』(2005年5月14日、朝刊)の文化欄でも紹介されました。その記事にも記されているように、こうした「非文字資料」については、図書館(たとえば、市立函館図書館http://www.city.hakodate.Hokkaido.jp/soumu/hensan/poster/poster_toppage.html)や博物館(たとえば、佐賀県立名護屋城博物館http://www.pref.saga.jp/bunka/main.php)でおこなわれているように、WEBをとおして公開される例がふえています。
 貴志さんは、こうしたポスターや絵はがきなどの「文字ではない資料」の研究、またそれによる歴史研究が本格化していない理由として、こうした資料が共有されていないことをあげました。所蔵する絵はがきにしても、それについてのデータベースのシステムにしても、どんどん公開してゆこうとする貴志さんの姿勢には、停滞する研究情況を活性化させようとする意欲がみられます。
 デジタル技術の利点は、こうした資料の公開を多方面に向けておこなえることとなります。ただわたしたちはそうした作業について、どれだけ費用がかかるのか、をつい気にしてしまうところがあります。貴志さんは、そうお金は必要ない、さまざまな知識と発想と技術を持った人びとのネットワークをつくればよい、といいます。1つの大学という組織を超えた協同の作業がデータベースの制作を可能とし、そしてそのシステムは資料を公開するときに、たとえば、絵はがきについて、その絵柄はもちろんのこと、描かれた対象の地図上の位置、書誌情報、そして描かれた場所や作成された(であろう)年代をめぐる統計などを連繋してみせることを可能としています。そのうえで、「資料をどういう解析、どのような解釈の手段とできるのか」は資料の利用者にゆだねられていると、貴志さんはいいます。こうしたデータベースは、資料を保存し整理し、そして公開してゆくものと、その資料を利用するものとのあいだに、両者の対話がうまいぐあいにおこなえる可能性を開いているように思いました。
 貴志さんの作業は、その一端が、シンポジウムという成果として公開されています(貴志ほか編『「東アジア」の時代性』溪水社、2005年)。また、今年の11月26日(土)には、「描く日本、描かれる日本―可視化するアジア・アイデンティティ」(お茶の水大学)というテーマのシンポジウムも開かれる予定です。出席者8名。(阿部安成)